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「一番見るのはヒカキン」と話す盲学校の生徒たち YouTubeやゲームが大好きな彼らはどうやって「見る」のか

2021年7月9日(金)19時34分
Screenless Media Lab. *PRESIDENT Onlineからの転載

取材を申込んだ時点のわれわれの思惑は「目の見えない子どもたちは、視覚重視の方向に向かう動画メディアに疎外感を感じており、聴覚メディアであるラジオの重要性を訴えるのではないか」というものだった。

ラジオかと思いきや「YouTube見てます」

だが、実際に盲学校の生徒たちに話を聞くと、回答はまったく異なるものだった。「みなさんはふだん、どんなメディアに接していますか」という最初の質問に対し、「一番見ているのはYouTube」という、いかにも今どきの高校生らしい答えが返ってきた。

驚いたのは、生徒たちがYouTubeを「見る」と表現した点にある。

ネット上でもっともポピュラーな動画メディアであるYouTubeは、「聴覚情報の視覚化」がもっとも進んだコンテンツでもある。それをなぜ、視覚障害者の子どもたちが好んで「見て」いるのか。

「一番見ているのはヒカキンかな」
「うん。ヒカキンおもしろい」

名前が挙がったヒカキンは、商品紹介動画などを投稿して10代の若者を中心に人気を博している男性YouTuberである。

われわれは視覚障害のある生徒たちの趣味嗜好が、あまりに一般の若者と同じであることに虚を突かれた。

実はバリアフリーなヒカキン

ヒカキンの動画を音の面から分析してみよう。まず、さまざまな効果音やエフェクトが巧みに使用され、番組を盛り上げている。音と言葉の使い方に細かく神経が配られ、情報空間として完全な整合性を保っているのだ。

商品紹介動画で例えるならば、「これ買ってきた」という言葉が「ドーン」という効果音とともに語られ、音を聴いているだけで「商品が今、登場した」ことが分かる。

商品の開封時には「では、今から開けます」という語りがつき、開封の後には商品の紹介や説明があり、「使ってみて、ここがおもしろかった。ここがすごい」といった感想が続く。

「これ、すげえな」というとき、口ではそう言いながらも「がっかり」する場合もある。しかし、ここでは声色が完全に使い分けられているので、音だけですべての状況が分かるように構成されている。

目の見えない若者たちからすると、非常に分かりやすい。

番組の内容も、ラジオ以上に現代性を持っている。同世代に人気のYouTube番組という現代を象徴するコンテンツが、音によって完璧に表現され、目の見えない生徒たちもそのおもしろさを享受している。それを彼らは「見る」と表現しているのだ。

取材をしていてもうひとつ驚いたのが、盲学校の生徒たちがテレビゲーム、それも対戦型の格闘ゲームを楽しんでいることだった。

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