最新記事

韓国映画

不平等、性暴力、金銭問題...韓国映画界の「膿を出し」栄光を支える組織の存在

POWER TO THE DIRECTORS

2021年5月6日(木)18時04分
ヤン ヨンヒ(映画監督)

性暴力防止の取り組みについて、DGKの中でも最初は消極的な意見が多かった。「警察でもないのに捜査するわけにもいかない」「仲間である監督を裁けるのか」などの声が上がった。性暴力防止委員会に参加していた男性監督たちも「キツイ」と弱音を吐き始め途方に暮れた。そんななか、事件が続いた。

世界的な#MeTooの流れも影響

台本にも打ち合わせにもない性暴力を撮影中の演技で俳優チョ・ドクチェが強行したと共演者が告発。泥沼裁判の過程で被害者の俳優はDGKの性暴力防止委員会を頼った。18年、チョは最高裁で有罪になった。また、DGK組合員である映画監督イ・ヒョンジュに性暴力を受けたと同僚の映画監督が告発し、同じく18年に最高裁で有罪が確定した。DGKでは加害者である監督を除名処分する厳しい決断を下した。

「裁判で勝っても被害者は時間を失い、心身を病み、情熱を注いできた映画から離れることが多い。業界が防止に取り組まなければ、解決方法が訴訟だけになる。その間どれほどの犠牲が出るか。映画人の意識を変えるガイドラインを設ける必要があった」とイ監督は振り返る。

世界的な#MeTooの流れにも刺激を受け、被害者の立場に立たなければ性被害問題は解決しないという認識が定着し始めるなか、18年に韓国映画性平等センター「ドゥンドゥン」が生まれた。ドゥンドゥンは、KOFIC(韓国映画振興委員会)から助成を受ける全ての制作チームに対し、撮影に入る前にスタッフを一堂に集め、性暴力防止の講義を行うことを決め実行している。

それだけでは足りないと、DGK性暴力防止委員会は監督たちへの性暴力防止教育を始めた。DGK定期総会は、専門家を講師に迎えた性暴力防止レクチャーから始まる。

イ・ユンジョン監督は性暴力防止のガイドライン作成にも取り組んだ。米プロデューサー組合(PGA)のガイドラインと、米演劇団体シカゴスタンダードが#MeToo問題を研究した資料を参考に、19年に発表した「中支申(チュンジシン)」(中止・支持・申告 ストップ! サポート! レポート!)だ。

210504_11P36lee_KEC_06.jpg

イ・ユンジョン監督(左) HAN MYUNG-GUーWIREIMAGE/GETTY IMAGES

ストップとは周囲にいる人々もやめさせようという呼び掛けであり、サポートとは被害者側に立てというスタンスであり、レポートとは管理監督義務がある制作会社や映画団体に申告できるシステムをつくろうということだ。韓国ではまだ「申告」の部分が弱いとイ監督は指摘する。

「性暴力事件が起き申告したとき、誰が解決のためのコントロールタワーになるかがはっきりしない。KOFICに申告センターが設置され、防止対策に生かされるべき。相談に行っても『裁判で頑張ってね』になると、被害者は時間と労力と裁判費用を考え訴えなくなる。事件は埋もれ『悪しき現場の文化』がはびこっていく。プロデューサーと制作会社、業界を管理監督する団体が逃げ腰にならず対応すべきだろう。それでこそ監督たちは作品に集中できる」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 6

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中