最新記事

追悼

韓国キム・ギドク監督、コロナで死去 世界三大映画祭受賞の巨匠とセクハラ醜聞、本当の姿は?

2020年12月14日(月)18時55分
ウォリックあずみ(映画配給コーディネイター)

新型コロナウイルスによる合併症により12月11日ラトビアで客死したキム・ギドク監督。写真は第69回ヴェネツィア国際映画祭で『嘆きのピエタ』が最高賞である金獅子賞を受賞したときのもの。REUTERS/Tony Gentile

<人間の本質に切り込む異才の死を世界が悼んだ。だが母国の映画人の多くは沈黙している......>

昨今、日本では芸能人が不祥事を起こしてしまった場合、本人の活動自粛以外に、出演作品の放送や上映をどうするのかが話題になる。

「作品と演者は切り離して考えるべき」という意見と「責任を取って表舞台には出すべきではない」「被害者の心境を考えると、目につく要因は排除すべき」という意見に分かれ論議されている。

先週11日、ある映画監督の訃報が流れた。彼の死は、作られた作品と作った本人のスキャンダルを切り離すか否かについて、再度考えさせられるものとなった。その監督とはキム・ギドク。韓国映画に興味がある人ならば、彼の名を知らない人はいないだろう。

欧州から高い評価を得た韓国唯一の監督

1996年『鰐〜ワニ〜』で監督デビューした。その後、2000年・2001年と連続してヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門に作品招待され、世界から注目を集める。

その後、彼は世界三大映画祭であるカンヌ国際映画祭、ベルリン国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭で受賞した韓国唯一の監督となった。

韓国内でも2003年に発表した『春夏秋冬そして春』は、韓国2大映画賞である青龍賞と大鐘賞で作品賞を受賞している。さらに2005年には『うつせみ』が国際映画批評家連盟賞年間最優秀賞を獲得した。

この輝かしい受賞歴をみると、一体どんな巨匠監督なのかと思ってしまうが、その作品はかなりアバンギャルドだ。

韓国では受け入れられず

人々はキム・ギドクの名前の枕詞に、よく「鬼才」という単語をつける。人間のダークな部分を生々しく描く作風で、痛々しく、表現が過激過ぎるため、韓国内の観客からはあまり受け入れられていない。実際、『悪い男』(70万人動員)、金獅子賞受賞作『嘆きのピエタ』(58万人動員)以外は、韓国内で興行的には失敗している。

筆者が学生として通っていたソウル芸術大学に、キム・ギドク監督は映画学科作品担当教授としてやってきた。授業中、よく絵画の勉強のため単身パリにわたったときの貧乏話や、初監督で映画について何も知らず、スタッフに馬鹿にされたことに腹を立て、結局自分ですべてやってしまった話などをしてくれた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=ダウ・S&P続落、FRB議長発言で9

ワールド

米、パキスタンと協定締結 石油開発で協力へ=トラン

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、FRBが金利据え置き

ビジネス

米マイクロソフト、4─6月売上高が予想上回る アジ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 3
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い」国はどこ?
  • 4
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 5
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 6
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 9
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中