最新記事

追悼

韓国キム・ギドク監督、コロナで死去 世界三大映画祭受賞の巨匠とセクハラ醜聞、本当の姿は?

2020年12月14日(月)18時55分
ウォリックあずみ(映画配給コーディネイター)

良くも悪くも子供のような人

エネルギッシュな人柄で、そのパワーは超時短撮影といわれる彼の撮影現場でも垣間見られた。それはまるで監督の一人舞台を見ているような感覚だった。

良くも悪くも子供のような人である。好奇心が旺盛で、自分が興味のある物や事柄を次回作ではすぐに反映させる。そして、それは普通の大人なら羞恥心によって隠すであろう女性への執着ですらも、映画の中で生々しく表現されている。

それがたたってか、作風から女性蔑視者であると言われ、撮影現場や映画祭会場でもよからぬ行動が噂された。そして、2008年オダギリジョー主演の映画『悲夢』では、自殺未遂シーンで女優が死にかける事故が起こった。

主演予定だった女優からの告発、そしてMeToo

その後3年間、彼は人里離れた山に籠って生活をしていた。3年後、その隠とん生活を描いた映画『アリラン』で復活し作品作りを続けたが、彼へのスキャンダルイメージを決定的にしたのが2017年、映画『メビウス』で主演予定だった女優からの暴行告発である。

その女優曰く、演技指導として頬を殴られ、合意のなかったベッドシーンを強要されたという。また、劇中登場する男性器も、偽物使用と聞かされていたが、撮影当日になって本物で演技しろと言われたそうだ。この訴えは裁判にかけられ、結果的にキム・ギドクがこれを認めて罰金を支払った。

翌年、ハリウッドから始まったMeToo運動が世界で活発化するなか、キム・ギドクの周囲のスタッフ、元出演者たちから次々と告発の声が上がる。さらに、ハンギョレ新聞女性記者も、インタビュー中にセクハラ行為を受けたことを発表し話題となった。

同年3月、告発スクープで人気の報道番組『PD手帳』で女優2人がセクハラ/レイプを告白したが、キム・ギドクは否定し、番組側を名誉棄損で訴えるも、PD手帳は迎え撃つかのように追加の告発内容で構成した続編の放送を発表した。

韓国で上映禁止の新作を日本の映画祭が招聘

こうした一連の流れから、2018年に制作した映画『人間の時間』は国内上映禁止になったが、2019年ゆうばり国際ファンタスティック映画祭が、これをオープニング作品に選出した。そのことを知った韓国の女性団体から抗議文が送られたが、ゆうばり映画祭側は上映決定を覆すことはなく、「犯罪を擁護してはいない」と回答し、作品とスキャンダルを切り離した考えを表明した。映画祭開会日には抗議者が数人会場へやってきたそうだ。

そして今年、キム・ギドクは移住準備のため、妻と娘を韓国に残しラトビアへ飛び立ったが、今月になって連絡が途絶え、12月11日コロナウィルスの合併症による死亡が確認された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

エヌビディア「自社半導体にバックドアなし」、脆弱性

ワールド

トランプ氏、8月8日までのウクライナ和平合意望む 

ワールド

米、パレスチナ自治政府高官らに制裁 ビザ発給制限へ

ワールド

キーウ空爆で12人死亡、135人負傷 子どもの負傷
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 6
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 9
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 10
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中