最新記事

映画

デマと偏見のはびこるアメリカに、ハチャメチャ男ボラットが放り込まれたら......

The Borat Sequel is a More Serious Moviefilm

2020年11月19日(木)19時00分
サム・アダムズ

ボラットはトランプ政権への貢ぎ物として娘を舞踏会で披露するが COURTESY OF AMAZON STUDIOS

<バロン・コーエンの風刺コメディー続編は現実のアメリカと向き合う本物のドキュメンタリー>

アマゾンプライム・ビデオで配信中の映画『続・ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画』の主人公ボラットは、カザフスタンのジャーナリスト。トランプ政権の大物に貢ぎ物を贈るという任務を帯びてアメリカにやって来る。

ところが貢ぎ物にするはずの自分の娘は出て行ってしまい、帰国しても死刑が待っている。自殺しようにも銃を買う金すらなく、彼は近くのシナゴーグ(ユダヤ教会堂)で「銃乱射事件の標的にされるのを待つ」ことにする。

2006年の『ボラット栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』に続き、主演はイギリスのコメディアン、サシャ・バロン・コーエン。前作でもユダヤ人差別がネタにされたが、このシナゴーグのくだりもかなりのブラックジョークだ。

バロン・コーエンは「もの知らずの外国人」のイメージを具現化したボラットというキャラクターを、現実のアメリカ社会に放り込んで作品を作る。彼はニューヨーク・タイムズ紙の取材に対し、前作ではボラットを介して人々の「内側にある偏見を暴き出した」と語っている。

だが今のアメリカでは、偏見を持つことは恥ではないようだ。ドナルド・トランプ米大統領やその支持者がメディアによる陰謀論を唱えたり「グローバルなエリート」にかみつく際には、反ユダヤ感情が見え隠れする。ネットにはびこるQAnon(Qアノン)の陰謀論の根底にも、いわゆる「血の中傷」(ユダヤ人は祭儀のためにキリスト教徒を殺すという、事実無根だが昔からある主張)がある。

ボラットは新型コロナ禍で外出禁止となったワシントン州の町で、そうした陰謀論を信じる男たちの家に厄介になる。彼らはビル・クリントン元大統領夫妻が子供を怯えさせ、「アドレナリンの分泌液」を抜き取って摂取していると語る。

今作は凝り固まった偏見を暴き出すよりも、偏見に対する「普通の人々」の無関心さに光を当てる。例えばケーキ店でボラットが、チョコレートケーキの上に反ユダヤ的なメッセージ(とニコニコマーク)を書くよう頼む場面。店の人は親切で、ニコニコマークをいくつも書いてくれる。

差別感情をどう描くか

差別意識を形にして見せるバロン・コーエンの手法に対し、あらゆる差別的偏見との闘いを掲げるユダヤ系団体の名誉毀損防止連盟(ADL)などからは、効果は期待できず、無責任だとの批判も聞かれる。自らもユダヤ人で、食事や安息日の戒律を守って暮らしているというバロン・コーエンも、そうした批判は重々承知している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局

ワールド

ポーランドの2つの空港が一時閉鎖、ロシアのウクライ

ワールド

タイとカンボジアが停戦に合意=カンボジア国防省
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中