最新記事

教育

日本近代の歩みとミシガン大学

2019年9月24日(火)12時00分
筒井清輝(ミシガン大学日本研究センター所長)※アステイオン90より転載

uschools-iStock.

<上皇陛下が皇太子時代の1953年に訪れるなど、日本と縁が深いミシガン大学。戦後まもない1947年に設立された、北米で最も長い伝統を持つ同大学日本研究センターの19代目所長筒井清輝教授が、1870年代の最初の日本人留学生グループの歴史から現在のアメリカにおける日本研究の拠点としての役割について語る>

昨秋、オックスフォード大学で、明治維新一五〇周年にあたって、その世界史的意義を考えるというサントリー文化財団主催のシンポジウムに参加させていただいた。基調講演では、まず苅部直東京大学教授が、明治維新が革命ではなく維新と呼ばれるに至った経緯について語り、何故支配階級である士族層が「ステイタス・スーイサイド」とも呼べる特権放棄を行い、敵視してもおかしくない外来の技術や文化を受容し、比較的暴力性の少ない形で新体制を確立できたのかについて報告した。苅部は、幕末期に封建的身分制度に縛られた閉塞的社会に不満を抱いていた士族たちが多くおり、彼らの不満が特権を放棄してでも新しい社会を築こうというエネルギーに変わったこと、また彼らを中心とする明治期のリーダーたちが、欧米の技術や文化の先進性を素直に認めた上で、そこに日本の伝統との共通性を見つけることでその広い受容を容易にしていき、近代日本の発展の礎を築いたこと、などを強調した。

続いてオックスフォード大学のショウ・コニシ教授が、官ではなく民の間での、特に明治維新の「敗者」や「犯罪者」の関わった国際交流の歴史に関する報告を行った。コニシは、シカゴ大学でトレーニングを受けた歴史学者らしく、明治維新とともに一旦閉鎖された懐徳堂を端緒に、ロシア正教会やトルストイの思想が宗教としてではなく、徳として、特に「敗者」の間で広く受け入れられ、その後の日本の思想史にも大きな影響を与えたという、歴史学のグローバル・ヒストリーへの関心を反映した壮大な歴史の流れを語った。

二人の刺激的な報告を聞いて、そこで描かれたような日本の近代化と国際社会との関わりは、私の所属するミシガン大学の歴史にも深く刻まれていることに思いを馳せた。苅部の報告にあったような維新初期の欧米の新しい知識への渇望は、遠くアメリカ中西部のミシガン大学まで届いていた。現在では、毎年数多くの日本人留学生が研鑽を積むミシガン大学だが、一番最初の留学生グループが訪れたのは一八七〇年代に入ってからであった。その中でも最も有名なのは、のちに東大総長、貴族院議員、そして文部大臣にまでと立身出世を遂げた、外山正一であった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指

ワールド

米との鉱物協定「真に対等」、ウクライナ早期批准=ゼ

ワールド

インド外相「カシミール襲撃犯に裁きを」、米国務長官

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官を国連大使に指名
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中