最新記事

映画

映画「アベンジャーズ」が韓国を変えた 撮影現場にハリウッドがもたらした緊急医療支援

2019年4月18日(木)18時00分
杉本あずみ(映画配給コーディネーター)

日本の映画界は「自己責任」

このように、ハリウッドでは当たり前となっている撮影現場での安全対策だが、日本ではどうなっているのだろうか? 今回この記事をきっかけに、知り合いを通じて現場で映画の仕事をしているプロデューサー、ラインプロデューサー、小道具、メイク、監督など数人に話を聞いてみた。回答を総合すると、制作会社や契約にもよるが、基本的に韓国のような緊急医療チーム派遣について国などの公的支援は行っていないという。

配置についてもケースバイケースだが、危険を伴うスタントシーンなどでは救急車、また特に火を使うシーンでは消防車を呼ぶことはある。また、エキストラが多いシーンの日などは救護班スタッフを呼ぶそうだ。しかし、予算の少ない作品だとロケ地近くの緊急病院を下調べはするが常時呼ぶことはない。危険性の判断は各撮影チームの自主性にゆだねられているようで、ロケの場合警察に届けを出し許可をもらうが、緊急医療チームについての許可や規則はないようだ。

かといって、日本の撮影現場で事故がなかったというわけではない。1992年に公開される予定だった『東方見聞録』では、エキストラだった男性が溺れて意識不明になり翌日に亡くなる事故があった。1989年の『座頭市』では殺陣中に俳優の首を切り死亡する事故があり問題となった。このほかにも、ドラマや映画の撮影現場での事故をニュースで聞くことはよくある。特にアクションシーンでは、スタントマンだけでなく俳優も危険と隣り合わせで撮影することが多い。

日本はまだ自主的に緊急医療チームの配備をしているが、もしも公的な資金のサポートがあって、事故の発生した撮影現場に救急車や消防車が配備されていたら、或いは防げた事故があったかもしれない。俳優やスタッフは、自分の身を守るためにもっと声をあげてもいいのではないか?

映画撮影チームが、海外ロケに出て撮影をするのは、異国での珍しい画を撮ることでその作品に新鮮味をもたらすためだ。だが、それと同時に、今回の韓国の例を見てみると、安全意識や撮影技術の高い海外の撮影チームが来ることで、その撮影地に新しい撮影手法や撮影時の安全確保などで、いい影響を与えてくれるという利点もあるわけだ。

今回の韓国での公的支援の打ち切りは、韓国映画スタッフらにとって悲しいニュースとなってしまったが、韓国のスタッフ、俳優らはこの決定についてデモや署名をして抗議したり、何か動いている様子はなく、素直に受け止めているようだ。KOFICの発表にあるように、支援がなくても自ら安全確保ができるように意識が高まり、「映画現場緊急医療支援」はその役割は果たし、必要なくなったのだと信じたい。少なくとも今後、資金サポートがなくなったことによって事故が増えるなどという最悪な方向に進まないことを願っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、農場やホテルでの不法移民摘発一時停止 働き手不

ワールド

米連邦最高裁、中立でないとの回答58%=ロイター/

ワールド

イスラエル・イラン攻撃応酬で原油高騰、身構える投資

ワールド

核保有国の軍拡で世界は新たな脅威の時代に、国際平和
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中