最新記事

古典芸能

【歌舞伎の歴史】400年前、1人の女性の念仏踊りから始まった

2018年1月9日(火)19時02分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

東京・銀座の歌舞伎座(2016年撮影) 7maru-iStock.

<メジャーな娯楽から教養へ――。室町時代の阿国の歌舞伎踊りに起源を持つ日本の古典技能は、時代と共にどのように移り変わり、人々に親しまれてきたのか>

400年以上前に生まれ、今なお、人々の注目を集める日本の総合芸術、歌舞伎。東京・銀座の歌舞伎座が130周年を迎える2018年、歌舞伎界は例年以上に華々しい幕開けとなる。

初代松本白鸚、九代目松本幸四郎、七代目市川染五郎の親子孫同時襲名から37年が経ち、二代目松本白鸚(松本幸四郎改め)、十代目松本幸四郎(市川染五郎改め)、八代目市川染五郎(松本金太郎改め)の襲名披露興行が、1~2月に行われるのだ。

とはいえ、そもそも襲名とは? あの隈取りにはどんな意味がある? 古めかしい演目は難しそう? 歌舞伎役者たちの活躍を見聞きすることはあっても、歌舞伎の基本や"楽しみ方"をきちんと知っている人はどれだけいるだろう。

喜怒哀楽、美しいもの・汚いもの、そうした人間臭さの全てが詰まっていて、粋や義理人情など、あらゆるところに美学がちりばめられている。そんな歌舞伎をあらゆる角度から味わい尽くすのに役立つ『Pen BOOKS そろそろ、歌舞伎入門。』(ペン編集部・編、CCCメディアハウス)から、歌舞伎の歴史に関する記事を2回に分けて抜粋する。

[語り手]
松井今朝子(作家)
松竹に入社し、歌舞伎の企画・制作に携わる。退社後は故・武智鉄二氏に師事し、歌舞伎の脚色・演出・評論を手がける。現在は小説家として活躍。2007年に『吉原手引草』(幻冬舎刊)で直木賞受賞。

◇ ◇ ◇

慶長8年(1603 年)、出雲の阿国(おくに)(1)率いる若い女優による一団が、京都の四条河原周辺で興行した踊りがその起源とされる歌舞伎。そもそも阿国が演じたのは室町時代の末期から庶民の間で流行した「風流(ふりゅう)」(2)の舞台化であった。「風流」はきらびやかな衣裳をつけて踊る享楽的な舞踊で、そこには戦乱時代から抜け出した庶民の喜びが表れていた。阿国の歌舞伎踊りは爆発的な人気を博し、その結果、女歌舞伎、遊女歌舞伎が氾濫する。すると幕府は風俗上の問題から女歌舞伎に禁令を下す。それに代わって勢力を得たのが若衆(わかしゅ)歌舞伎(3)だ。元服前の前髪をつけた美少年を中心とする一団は、舞踊以外に狂言を通俗化した猿若狂言(4)などを演じた。しかしこれもまた男色の問題から幕府により全面禁止に。そんな紆余曲折の末、再上演されることになった歌舞伎の条件はふたつ。ひとつは若衆のシンボルである前髪を剃り落としたいわゆる「野郎歌舞伎」(5)であること。ふたつ目は写実的で劇的な演目である「物真似狂言づくし」(6)を演ずること。売色的な要因を排するのが狙いだ。こうして歌舞伎は演劇的な要素を強めていくことになる。

日本独自の芸能である歌舞伎が、時代とともにどのように変わりながら人々に親しまれたのか、作家・松井今朝子さんにお話を伺った。

「歌舞伎というのは『かぶく』という言葉からきています。つまり思いっきり逸脱する者、跳ねっ返りの最たるものが歌舞伎で、最先端を行くものをどんどん吸収して成り立っていた。最初からいまのような型があったわけじゃない。いろんな時代の民意が反映され、洗い流されて現代に残ったのです」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

FRB利下げ「良い第一歩」、幅広い合意= ハセット

ビジネス

米新規失業保険申請、3.3万件減の23.1万件 予

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中