最新記事

中国

「二次元経済」とは何か? 中国ビリビリマクロリンク取材記

2017年8月4日(金)21時32分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

とはいえ、ビリビリ動画には現在、中国人ユーザーによる「踊ってみた」「歌ってみた」(一般ユーザーが人気の曲を踊った/歌った動画をアップすること)や料理動画、ペット動画などもあり、ジャンルは拡散しつつある。ビリビリ動画によると、2016年の調査では全アップロード動画のうち68%はユーザー独自コンテンツだという。

もはやビリビリ動画は日本アニメを見るためだけのサイトではないわけだ。ビリビリ動画の陳睿董事長によると、日本アニメ・マンガは今も主流ジャンルではあるものの、ビリビリ動画上での再生回数だけを見れば中国国産アニメが上回っているという。

ビリビリ動画はたんに日本アニメの正規配信権を購入するだけではなく、2014年末には日本支社を設立。2015年以来、日本で21作品に出資している。うち4作品は制作委員会の幹事会社としての参加だ。現在の日本アニメ業界の好調は海外市場が牽引する部分が強く、ビリビリ動画もその一角を担ってきた。

それにもかかわらず、中国のコアなアニメファンからは子供向けと一蹴されている中国国産アニメのほうが再生回数は上だというのだ。

陳董事長は「実際、我々はすでに数十タイトルの中国国産アニメに投資している。ビリビリは今後、国産アニメファンにとって最も重視されるプラットフォームの1つとなるでしょう。中国国産アニメは現在台頭の最中にあると考えています。5年先、10年先の台頭の過程において、ビリビリが重要な役割を果たすことは間違いありません」とコメントしている。

【参考記事】第四次アニメブームに沸く日本、ネット配信と「中国」が牽引

takaguchi170805-chart.png

「踊ってみた」や「料理」などのユーザーコンテンツにせよ、あるいは中国国産アニメにせよ、ビリビリ動画に投稿されている弾幕コメント(ニコニコ動画的な、画面上に重ねて表示されるコメント)には、日本的文脈から生み出された文化が息づいている。根源をたどれば日本由来であることは間違いないのだが、今やその枠を跳び越えつつあるようだ。

takaguchi170805-5.jpg

ビリビリワールド会場内に設けられたメイン会場閲覧用スクリーン。すぐ隣にメイン会場があるのだが、弾幕コメント付きの映像を見るためかスクリーン前に集まった人も多かった(筆者撮影)

コンサートでも、私の前に座っていた観客は日本人歌手が歌っている時も中国人一般配信者が歌っている時も変わらず、サイリウムを振り乱しながら「タイガー、ファイヤー、サイバー、ファイバー、ダイバー、バイバー、ジャージャー!」と叫んでいた。

takaguchi170805-6.jpg

ビリビリマクロリンクのコンサート(ビリビリ動画提供)

日本コンテンツにとどまらず広がっていく「二次元経済」を目の当たりにして、ニッチを超えた規模に達する可能性を強く感じた。一方、テンセントはすでに中国原作の小説・マンガを日本のスタジオでアニメ化するという新たな取り組みをも始めている。果たして日本企業は「二次元経済」の商機をつかむことができるのか。

[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)、『現代中国経営者列伝 』(星海社新書)。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中