最新記事

都市

超高層タワー計画でパリの景観論争が再燃

景観が壊れるだけでなく、才能豊かな人材が哲学論争に花を咲かせるカフェ文化もぶち壊し?

2015年7月24日(金)18時32分
メアリー・カルメレク

ランドマーク エッフェル塔は周囲の低層建築と調和しているが Charles Platiau-REUTERS

 パリ議会とアンヌ・イダルゴ市長は先月末、中心部での超高層タワー建設計画を42年ぶりに許可した。「トゥール・トリアングル(トライアングルタワー)」という名称のこの建造物は高さ180メートル。スイスの設計事務所がデザインして、パリ南西部の15区に建設される。120戸の住居の他、四つ星ホテル、レストラン、高層階バー、そして約7万平方メートルのオフィススペースが入る予定だ。

 パリ中心部で最後に超高層タワーが建てられたのは、1973年の「トゥール・モンパルナス(モンパルナスタワー)」。周辺の伝統的な街並みとは相容れない、近代的な外観が威容を誇る高さ210メートルのタワーは、当時パリの景観を損なっているという非難を巻き起こした。

 このため77年には、37メートル以上の建築物に対する規制が設けられた。それ以来、ほとんどの高層建築は、近郊の金融地区ラ・デファンスで建設されている。

 しかし2010年、パリの人口増加に対応して規制が緩和され、現在は高層マンションなら50メートル、高層ビルなら180メートルの高さまで許可されている。つまり「トゥール・トリアングル」は規制ぎりぎりの高さだ。多くの人が、再びパリ市民の間で景観論争が勃発すると見ている。

 19世紀の政治家ジョルジュ・オスマンによって近代化が推進されたパリの街並みは、5階建ての建物と、通りに日光を届かせるため45度に傾いた屋根、錬鉄を加工した装飾や重厚な石造りの正面玄関が特徴的だ。世界的にも有名なこの建築様式で、パリは他の大都市と一線を画している。

 建築史の専門家アンドリュー・アイヤーズは、「パリのような街の美しさ、華やかさは、多くの小さな建物が一体となって醸し出される」と話している。この街並みによってエッフェル塔への視界が開かれ、ノートルダム大聖堂や凱旋門といったパリを代表する建造物とも調和している。

 しかし、巨大なガラス張りの三角形「トゥール・トリアングル」のような近代的な超高層タワーは、アイヤーズに言わせれば「周囲の建物と調和しない」。

建物は5階建てが一番才能を引き寄せる

 他の大都市との競争に勝つためにパリには高層建築が必要だという考えがあるとしたら、それはパリの独自性を否定し、毎年多くの観光客を招き寄せる魅力を失うことを意味する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ビジネス

英中銀、プライベート市場のストレステスト開始へ

ワールド

ウクライナ南部に夜間攻撃、数万人が電力・暖房なしの

ビジネス

中国の主要国有銀、元上昇を緩やかにするためドル買い
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中