最新記事

都市

超高層タワー計画でパリの景観論争が再燃

2015年7月24日(金)18時32分
メアリー・カルメレク

 ではなぜ、パリの歴史的な統一感を損なうリスクを冒してまで高いビルを建てるのか。第一に、経済的利益だ。雇用も増えるし、高いビルはテナント数が多いため、その分賃料も増える。

 だが、オフィスの空室率がわずか7%のパリで、超高層タワーに対する差し迫った需要があるとは思えない。住宅不足は深刻だが、超高層以外のより良い解決策があるだろう。アイヤーズは、建物の高さや容積率を制限すれば、パリの魅力を壊さなくても人口密度を上げることはできる、と言う。

 低層の住宅が立ち並んだ人口密度の高い街では、住人は互いに交流し、通りでより長い時間を過ごすようになる。それこそ、パリの特徴だ。スイスの作家で哲学者のアラン・ド・ボトンによれば、都市の建物は5階建てが理想。なぜなら、それ以上の高さだと、人は自らの存在を「矮小で取るに足りない」と思うようになる。昔から、インスピレーションを求めて芸術家や哲学者が集まってきたのは、理想の5階建て住宅のおかげなのかもしれない。

 一棟の超高層タワーでパリ固有の美しさが破壊されることにはならないかもしれないが、この建設が突破口になってパリ中心部に摩天楼が出現することを批評家たちは恐れている。

 トリアングルのウェブサイトはこの高層ビルをパリの「ランドマーク」と表現している。それには時期尚早だろう。高くて大量のガラスを使いさえすれば、エッフェル塔のようなパリの象徴になれると思ったら大間違いだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中