最新記事

映画

アカデミー賞候補入り、日本人夫婦の素顔

長編ドキュメンタリー部門にノミネートした『キューティー&ボクサー』で注目、NY在住のアーティスト夫妻の爆笑本音トーク

2014年1月20日(月)16時46分

二人三脚 篠原夫妻は芸術家として40年近くニューヨークで戦ってきた © 2013 EX LION TAMER, INC. All rights reserved.

 篠原有司男(うしお)、81歳。現代芸術家、通称「ギュウちゃん」。

 60年代にボクシングのグローブでキャンバスをたたきつけるボクシング・ペインティングなどで注目された伝説の前衛アーティスト。日本で初めてモヒカン刈りにした男は、その反骨精神をもって69年、37歳でニューヨークに殴り込みをかけた。

 3年後、美術を学ぶためニューヨークへ渡った19歳の乃り子は有司男と出会ってすぐ恋に落ち、一緒に暮らし始める。子育てと苦しい家計のやりくりに追われるなか、乃り子は自分の創作活動を制限するしかなかった。

 ニューヨークのアートシーンは有司男に厳しかった。話題になることはあるが、作品は売れない。商業的な成功より、ただ純粋に芸術を追求して真っ向勝負を挑んだ有司男の不器用さも道を阻んだ。乃り子はそんな奔放過ぎる夫に時に愛想を尽かしながらも支え続けた。

 ドキュメンタリー映画『キューティー&ボクサー』は、ニューヨーク在住40年の篠原夫妻の闘いと愛の記録だ(日本公開中)。監督のザッカリー・ハインザーリングがブルックリンにある夫妻の自宅兼スタジオにカメラを持って入ったのは08年のこと。カメラは最初、あふれんばかりのエネルギーで創作に励む有司男を中心に撮っていた。だが次第に夫婦の葛藤、心の痛み、そして1人のアーティストとして歩き始めた乃り子へと視点が移っていく。

 長年、有司男のアシスタントに甘んじてきた乃り子が見つけた表現方法とは、夫婦の波乱の40年を自分の分身の「キューティー」に託して描くこと。飲んだくれで身勝手な夫に失望し苦悩しながらも、運命を共にしてきたキューティーの心の叫びを漫画的なドローイングでつづる。

 この映画はアーティストの人生ドラマというより、「キャリアへの失望、男女の役割、結婚、老いること」という普遍的なテーマを問い掛けた作品だと、ハインザーリングは言う。篠原夫妻に本誌・中村美鈴が聞いた。

*****

──ボクシング・ペインティングをするときは無の境地なのか。

有司男 そりゃあもう、僕の得意技よ。何も考えない。だって最初のボカーンが一番気持ちいいもんね。白いところにビシャーとね。見てる人たちが僕を興奮させるから、ギャラリーは多ければ多いほどいいね。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中