最新記事

映画

アカデミー賞『アルゴ』にイランが激怒

ミシェル大統領夫人の受賞発表という「政治的」演出に国内外から批判が

2013年2月26日(火)18時58分
フレヤ・ピーターセン

問題作 イランを一方的に悪者扱いにした、と逆鱗に触れた『アルゴ』 ©2012 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

 イラン革命成立後の79年11月、イランの学生400人あまりが首都テヘランにある米大使館を占拠し、52人のアメリカ人を444日間拘束するという事件が発生した。この時の大使館職員救出作戦を描いた映画『アルゴ』(ベン・アフレック監督)が、米アカデミー賞で作品賞など3冠に輝いたことにイランがかみついた。受賞は「CIA(米中央情報局)の宣伝」であり、事件を歪曲して伝えるシオニスト(ユダヤ主義者)の陰謀だというのだ。
 
 ワシントンポストは、イランのファルス通信からの引用でこう伝えた。「オスカー史上でも珍しいことに、大統領夫人が反イラン映画『アルゴ』の作品賞受賞を発表した。この作品はシオニストの企業、ワーナー・ブラザースが制作したものだ」

 『アルゴ』はイラン国内では劇場公開されていないが、海賊版DVDが評判になっている。世代によって作品の評価は分かれているようで、当時のイラン革命に参加した人々が厳しく批判する一方、事件を直接の体験として覚えていない若い世代は違った見方をしている。AP通信によればテヘラン市議会議員のマスーメ・エブテカーは、『アルゴ』は米大使館襲撃時の暴力を誇張していると指摘。エブテカーは襲撃に加わった学生の1人だった。

授賞式登場はミシェルが初めてではないが

 ミシェル・オバマがホワイトハウスからの中継という形で受賞式に登場したことで、アカデミー賞が政治的なものであることが明らかになったという批判もある。ファルス通信と同じくイランのメヘル通信は、なぜ「反イラン映画の受賞発表のときだけ」例外的にミシェルが現れたのか、と疑問を呈する。

 大統領夫人の登場に憤ったのはイランの人々だけではない。「教会と国家の分離はもちろんだが、ハリウッドと国家の分離こそ必要だ」と、保守派ジャーナリストのミシェル・マルキンは語った。米ニュースサイトのブレイトバートは、ミシェルの登場は「常識はずれ」と批判した。

 しかし、リベラル派の市民団体メディア・マターズ・フォア・アメリカ(MMFA)はこう指摘している――ミシェル・オバマは受賞作を発表するのに「ふさわしい」と思っているようだ、と右派メディアは批判するが、受賞式に登場した大統領夫人は彼女が初めてではない。

 ジョージ・W・ブッシュが大統領だった02年、ローラ夫人はアカデミー賞受賞式のオープニングに登場した。81年の受賞式には、就任したばかりのロナルド・レーガン大統領のホワイトハウスからのビデオメッセージが流れた。

From GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インドネシア中銀、3会合連続金利据え置き ルピア支

ワールド

戦略的互恵関係を推進、国会発言は粘り強く説明=日中

ビジネス

アングル:米株式取引24時間化、ウォール街では期待

ビジネス

英CPI、11月+3.2%に鈍化 市場は18日の利
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中