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映画

無敵のスパイ007の新たな試練

2009年4月7日(火)16時54分
デービッド・アンセン(映画担当)

深みのある脚本が必要

 クレイグはこの美しき殺し屋をよみがえらせ、情熱を内に秘めたタフガイという新たなボンド像を打ち出した。クレイグ版ボンドは戯れのロマンスはしない。愛する女性を失うストーリーは見ているほうもつらかった。

 最新作『慰めの報酬』は、ビキニ姿の美女が売りものだった従来の作風とは正反対だ。ボンドが放った銃弾でスクリーンが赤く染まる定番のオープニングもなしだ。

 シリーズ初の続きものである本作は前作『カジノ・ロワイヤル』のエンディング直後から始まる。前作を見ていないと話に入り込めないかもしれない。悲恋を回想するシーンもないため、ボンドが激しく傷つき、復讐に燃えている理由がわからない。

 上映時間105分とシリーズで最も短い作品だが、アクションシーンの多さは過去最大級。のっけから海岸でカーチェイスが始まる。だが次々に繰り出されるアクション場面の迫力は、前作の目玉だったアフリカの建設作業現場での追跡シーンにかなわない。編集で映像を切り刻んだせいで、支離滅裂な仕上がりになっているからだ。

 最新作は安っぽい出来ではないが、心から楽しめる傑作でもない。クレイグははまり役だが、内に情熱を秘めたタフガイというボンド像を確立するにはより深みのある脚本が必要だ。本作では生煮えのアクションとクレイグの深刻そうな演技ばかりが目立つ。

 インディーズ系の佳作『チョコレート』などを手がけたマーク・フォースター監督が、ストーリーに現代世界との接点を盛り込もうとしたのは明らかだ。敵の組織がねらうのはボリビアの天然資源の独占で、CIA(米中央情報局)や英情報機関の暗部を皮肉る描写もある。それでも本作は21世紀のボンド映画というより、三流のアクション映画としか思えない。 

 もっともボンドは23回も悪を倒した不死身の男。24作目で息を吹き返す可能性はある。

[2009年1月28日号掲載]

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