最新記事
大学

もう1つの<異端>大学教授──学歴はなくとも研究業績は博士に匹敵する人たち

2019年7月2日(火)18時50分
松野 弘(社会学者、大学未来総合研究所所長)

まさに、独学者の「一つの生き方」を示している。また、社会学者の加藤秀俊氏が書いた『独学のすすめ――現代教育考』(文藝春秋、1975年〔初版〕)では、学校が学問をする唯一の場ではなく、数多くの「学び」の場の一つであることを明言しているが、これもまた「独学」の神髄を突いている言葉である。

日本の独学者列伝:南方熊楠から安藤忠雄まで

明治以降の近代社会では、植物学者の牧野富太郎氏、博物学者・民俗学者の南方熊楠氏、英語学者の田中菊雄氏等が象徴的な独学者として取り上げられてきた。

建築界の異端児で世界的に著名な安藤忠雄氏は工業高校卒業ながら、独学で建築学を勉強し、数々の国際的な賞を受賞し、短期間(1997―2003年)ではあるが、東京大学大学院工学研究科教授として招聘され、現在は東京大学特別栄誉教授となり、まさに現代独学者のトップランナーである。

また、東京大学大学院経済学研究科教授の柳川範之氏は大検、大学の通信教育学部(慶應大学)、東大大学院を経て、東大教授になった人物である。彼はその著作『独学という道もある』(ちくまプリマー新書、2009年)を刊行して以来、専門の経済学以外に「独学」という勉強法の有効性について論じてきている。

この他、現在社会的知名度のある研究者や大学教授で、正規の学歴ルートを経ずして大学教授になったケースとしては、生命科学者の米本昌平氏(元東京大学先端科学技術研究センター特任教授)、経済学者の故奥村宏氏(元中央大学商学部教授・龍谷大学経済学部教授)、中小企業研究で有名な中沢孝夫氏(兵庫県立大学大学院客員教授)、民俗学者の赤坂憲雄氏(学習院大学文学部教授)等が挙げられる。

具体的にいえば、米本氏は京都大学理学部卒業後、学生運動を通じての大学やアカデミックライフへの不信感から、自分の専門分野とは畑違いの証券業界へと転身。名古屋の中小証券会社の調査部員として働く傍ら、京都大学時代の恩師の指導を受けながら、独学で生物学の研究を行い、学会誌に論文を発表した。

その結果、京都大学時代の先輩の紹介で、三菱化成の新設の研究所、三菱化成生命科学研究所の研究員として採用されることになった。その後、同研究所の研究室長、株式会社科学文明研究所所長として、科学史・科学論・生命論・環境問題等に関する著作を数多く発表し、専任ではないものの、東京大学先端科学技術研究センタ-特任教授・東京大学教養学部客員教授として活躍した。

彼の研究姿勢のユニーク性は、科学技術の社会的責任性を追求している点にある。生命科学を倫理的な側面から再検討していく視点、例えば、人類における優生政策を歴史的に俯瞰した上で、ナチス・ドイツにおける優生政策がユダヤ民族の大虐殺(ポグロム)を生み出してきたということの意味を問い直しているという点である(『優生学と人間社会』米本昌平他、講談社現代新書、2000年)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

高市首相、応援演説で円安メリットに言及 米関税のバ

ワールド

米政府機関の一部が閉鎖、短期間の公算 予算案の下院

ビジネス

中国1月製造業PMIが50割れ、非製造業は22年1

ワールド

トランプ氏、労働統計局長にベテランエコノミスト指名
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 2
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵士供給に悩むロシアが行う「外道行為」の実態
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    日本はすでに世界第4位の移民受け入れ国...実は開放…
  • 5
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパ…
  • 6
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 7
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 8
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 9
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 10
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 5
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中