最新記事

モノづくり

イノベーション流行りの日本が、順位を4位から25位に落とした理由

2018年6月4日(月)17時59分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

オープンではなくトゥルーがうまくいく理由

イノベーションを生む手法として、近年、企業などが積極的に取り入れているのがオープン・イノベーションだ。外部からの人材や情報をオープンに取り入れ、自社が持つ強みや資源と組み合わせることで、新たな価値を生み出そうというアプローチである。

本書の中で、大手メーカーのエンジニアやデザイナー、外資系コンサルティング企業の若手社員、さらに日本有数の大学も参加する、ある製品開発カンファレンスに著者が携わったときの話が紹介されている。多くの優秀な人材が集まったものの、そこから製品化されたものは1つもなかったそうだ。

カンファレンスでは、参加者の多くが、それぞれの専門性によって「誰かの課題」を解決しようという高い志で動いていた。だが、そうした"他人ごと"を目標設定にすると、長い時間とそれなりの開発資金を必要とするようなモノづくりを支えきれない。誰かのための「すべき」ではなく、自分が「とにかくしたい」という想いがなければ、いずれ求心力を失ってしまうのだ。

自分ごとのモノづくりは、たった1人のアイデアから始まる。大きな資金力もないので、コツコツと開発を進めていくことになる。しかし、強い情熱には徐々に共感する人々が集まり、資金が集まり、プロジェクトは勢いを増していく。そうして、期待をはるかに超える成果を上げることもある。

「お一人様モノづくり」として始まったプロジェクトが、本来の企画者の能力を大幅に上回る価値を生み出す。それこそが「他に類のない『本物(トゥルー)』のイノベーションであり、他の誰でもない自分に『誠実(トゥルー)』なイノベーション」だという。

三木氏の会社が運営する自社製品・サービス開発講座「zenschool(ゼンスクール)」では、このような自分ごとから小さく始める「マイクロモノづくり」を推奨。本書では、その「zenschool」のメソッドで生まれ、実際に成果を上げているイノベーション事例として、手術などの際に医療従事者の体力的負担を軽減できる、身に着けて移動可能なイス「archelis(アルケリス)」や、差別化の難しいタクシー業界で、単なる移動手段にとどまらない心への作用を重視した新サービス「想い出タクシー」が紹介されている。

イノベーションに必要なのは議論ではなく対話

自分の内から湧き起こる「トゥルー・イノベーション」に対して、外部の情報を拠り所とするものを本書では「ミー・トゥー・イノベーション」と名付けている。

多くの人が「Me too(私も!)」と共感することを軸にして、製品・サービスを開発していく進め方で、巷の新規企画はたいていそうやって立てられている。だが、このやり方では結局、似通った競合製品で溢れ返った「レッドオーシャン」に身を投げ出すことになりかねない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、シカゴへ州兵数千人9月動員も 国防総省が計画策

ワールド

ロシア・クルスク原発で一時火災、ウクライナ無人機攻

ワールド

米、ウクライナの長距離ミサイル使用を制限 ロシア国

ワールド

米テキサス州議会、上院でも選挙区割り変更可決 共和
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋肉は「神経の従者」だった
  • 3
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく 砂漠化する地域も 
  • 4
    一体なぜ? 66年前に死んだ「兄の遺体」が南極大陸で…
  • 5
    『ジョン・ウィック』はただのアクション映画ではな…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 9
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 10
    【独占】高橋一生が「台湾有事」題材のドラマ『零日…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 7
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 8
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 9
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 10
    3本足の「親友」を優しく見守る姿が泣ける!ラブラ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中