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インタビュー

「社員の生産性」より「より良い仕事体験」が主流に

2017年10月27日(金)16時09分
WORKSIGHT

ビル全体が1つのシステムで有機的につながる

1990年代から続いてきたビル管理システムは、冷暖房や換気、エネルギーなどのシステムを制御するものです。一方で、セキュリティ、訪問者管理、照明といった他系統のシステムがあります。これらはシステムを共有していないため、有機的なつながりを持つことができません。

しかしスマートビルではインテリジェントビル管理システムが稼動します。各デバイスがインターネットで接続され、きめ細かい制御ができるようになりますし、ユーザーのスマートバッジや携帯電話、タブレットなどを通じて建物内の人物の動きを全て検出することもできます。しかもこのシステムはオープンプロトコルで提供されているので、実現のハードルは技術的にはそれほど高くありません。

ゆくゆくはビル内の全ての重要な機能を一括管理できるようになるでしょう。また、ビルの中にいる人々の行動を、1つのビジュアルインターフェイスでリアルタイムに観察し、対応することができるようになります。

近い将来に待ち受けるこうした変化を、オフィスデザイナーやファシリティマネジャー(施設管理者)は十分に理解しておかなくてはなりません。建物を管理するということは、単にビジネスの技術的側面だけを管理するのではなく、社会的側面も管理することになるからです。

ビル内の人の動きを把握し、作業プロセスを提案することも

ユーザー個々のフィットネスブレスレットを通じてデータを収集し、各人の快適さやストレス、建物の周囲状況までも監視するようになるでしょう。誰かがスマートカードや携帯電話のアプリを使ってオフィス内のレストランで何か注文したら、その人のその日のカロリー摂取量も分かります。そうしたデータを建物の熱と光に照らして調整することができれば、システム全体の有機的制御が可能になるはずです。

あるいは、施設管理者には建物内に誰がいるか一目瞭然なので、「プロジェクトメンバーがいま全員建物内にいるので、会議を開くとよいのでは?」などとメッセージを送ることもあるでしょう。建物自体が作業プロセスを促すことになるわけです。こんなふうに考えると、スマートビルの可能性は無限です。

従って、これを管理する人々には高度なスキルやセンスが問われることになります。人事、不動産、ITが一体化され、最高技術責任者のような人がウェルネスを担当する、そんな未来が見えます。それは20~30年も先の話でなく、4〜5年の間に実用化されるでしょう。

将来のファシリティマネジャーの役割は高度にデジタル化され、今とは全く趣が異なってくるはずです。多くのスタートアップ企業ではエクスペリエンス・マネジャー(経験豊富なマネジャー)と呼んでいるそうですが、うなずける話ですね。管理の対象がもはや「施設」ではなく「人」だからです。私の知人には「バイブマネジャー」もいますよ。社内の「雰囲気」を演出してみんなの意欲を引き出し、生産性を高める役割を担っているということです。

WEB限定コンテンツ
(2017.1.27 ロンドンのヘレン・ハムリン・センター・フォー・デザインにて取材)

text: Yoshie Kaneko
photo: Saori Katamoto

* WORKTECH(ワークテック)
働き方やワークプレイスの未来について考えるフォーラム。 2003年にロンドンで始まった。2017年は世界16都市で順次開催される。
WORKTECHアカデミーはフォーラムで得られた知見や事例を元に、グローバルコミュニティ全体で知識体系や課題解決策の構築を目指す。

** ウェル・ビルディング・インスティテュート(WELL Building Institute)による、入居者の健康と生産性に配慮したビルを評価する制度。

wsMyerson171026-site.jpgヘレン・ハムリン・センター・フォー・デザイン(Helen Hamlyn Centre for Design)は、人間中心のデザインとイノベーションをテーマに、企業や団体とも連携しながら研究活動やデザイン提案を行っている。1999年1月、ヘレン・ハムリン財団の支援を受け、RCA(イギリス王立芸術大学院:Royal College of Art)内に創設された。
http://www.hhc.rca.ac.uk/

wsMyerson171026-portrait.jpgジェレミー・マイヤーソン(Jeremy Myerson)
ヘレン・ハムリン・センター・フォー・デザイン、RCA 特任教授。RCA(Royal College of Art)卒業後、デザインジャーナリスト、編集者として出版物『デザイン』『クリエイティブレビュー』『ワールド・アーキテクチャー』でジャーナリストや編集者として活躍。1986年に『デザインウィーク』を創刊し、初代編集長を務める。1999年にRCAでヘレン・ハムリン・センター・フォー・デザインの設立に携わり、2015年9月まで16年間指揮した。2015年10月にUnwiredと共に、未来を見据える世界的な知識ネットワーク「WORKTECH Academy」を設立。韓国、スイス、香港のデザイン機関の諮問委員会に参加。Wired誌の「英国で最も影響力のあるデジタルテクノロジー分野のリーダー100人」にも選出されている。

※当記事はWORKSIGHTの提供記事です
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