最新記事
農業問題

「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が増加する」農水省とJAの利益優先で国民は置き去りに

2024年9月6日(金)18時44分
山下 一仁 (キヤノングローバル戦略研究所研究主幹) *PRESIDENT Onlineからの転載

【わずかな需要増で「コメ不足」になった】

需要の増加として挙げられているのは、インバウンドによるコメの消費増である。


 

しかし、毎月300万人の旅行者が日本に7日間滞在して日本人並みにコメを食べたとしても、消費量の0.5%増に過ぎない。

ほかにも、「国際的な小麦価格の高騰でパンの値段が上昇し、相対的に安くなったコメの消費が増加した」とか、「南海トラフ地震への恐怖から消費者がコメの備蓄のため買いに走っているのだ」とかという説明が行われている。

確かに、最近のコメ不足がこれらの要素によって引き起こされたことは事実だろう。

しかし、これらは、コメの全体需給の大きな部分を占めるものではない。足しあげても1割にもならない。問題は、こうしたわずかな生産や消費の変動でコメが足らなくなるほど、生産量が減らされていることである。

【農作物は不作のほうが売上高は増加する】

JA農協と農林水産省は、なぜ、ここまでコメの生産量を減らしたのか。

食料、なかでも必需品であるコメの「商品」としての特徴がある。

胃袋は一定なので、毎日の消費量に限界がある。テレビの価格が半分になると、もう一台買おうという気になるかもしれない。しかし、コメの値段が半分になったからといって、コメを倍食べようという人はいない。コメの値段が高くても低くても消費量はそれほど変わらない。

消費量が大きく動かないので、生産量が増え、それを市場でさばこうとすると、価格を大幅に下げなければならない。

豊作貧乏と言われる現象である。逆に、長雨などで不作になると、一定量は食べなければならないので、価格は高騰する。不作になると売上高は増加する。食料需要の特色から、供給がわずかに増えたり減ったりするだけで、価格は大きく変動する。

この食料についての経済学を利用したのが、JA農協と農林水産省が推進してきたコメの減反政策である。減反とは農家に補助金を与えてコメの供給を減らして米価を上げるものだ。需要の特性から、わずかな供給の減少でも米価や売り上げを大きく上げることができる。

実際に、減反は水田面積の4割に及んでいる。

また、減反は生産を抑える政策なので、コメの面積当たり収量(単収)を増加させる品種改良は、研究者にとってはタブーになった。単収とは生産性に他ならない。今では、減反開始時に日本と同じ水準だったカリフォルニアのコメ単収は、日本の1.6倍、情けないことに、1960年頃は日本の半分しかなかった中国に追い抜かれてしまっている。

水田面積全てにカリフォルニア米ほどの単収のコメを作付けすれば、長期的には1700万~1900万トンのコメを生産することができる。

単収が増やせない短期でも、900万トン程度のコメは生産できる。国内だけでこれを処理しようとすると、米価は暴落する。このため50年以上にわたる減反政策でコメ生産を減少させ、米価を維持してきた。

現在、JA農協と農林水産省は、主食用のコメの生産量を650万トン程度に抑制することを目標にしている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル極右財務相、「パレスチナ国家構想葬る」入

ワールド

プーチン氏に合意の用意、即時停戦の実現不透明も=ト

ワールド

米ロ首脳会談、文書署名の予定なし=ロシア大統領府

ワールド

プーチン氏、米はウクライナ和平で「誠実な努力」 核
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化してしまった女性「衝撃の写真」にSNS爆笑「伝説級の事故」
  • 3
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 4
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 5
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 6
    【クイズ】アメリカで最も「盗まれた車種」が判明...…
  • 7
    「デカすぎる」「手のひらの半分以上...」新居で妊婦…
  • 8
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 9
    「ホラー映画かと...」父親のアレを顔に塗って寝てし…
  • 10
    マスクの7年越しの夢...テスラ初の「近未来ダイナー…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 3
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何か?...「うつ病」との関係から予防策まで
  • 4
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 5
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 6
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 9
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中