最新記事
中国経済

中国の「過剰生産」よりも「貯蓄志向」のほうが問題...活発な資本市場の「特効薬」とは?

CHINA’S OVERCAPACITY

2024年4月15日(月)12時10分
姚洋(ヤオ・ヤン、北京大学教授、同大中国経済研究センター主任)
北京で李強首相に過剰生産への懸念を訴えたイエレン

北京で李強首相に過剰生産への懸念を訴えたイエレン(左) TATAN SYUFLANAーPOOLーREUTERS

<中国の補助金政策が代替エネルギーや電気自動車の過剰生産を引き起こしていると批判したイエレン米財務長官だが、問題の本質は別>

4月上旬、中国を訪れたイエレン米財務長官は、中国の補助金政策が代替エネルギーや電気自動車(EV)の過剰生産を引き起こしていると中国政府を批判した。

中国企業は手厚い補助金に支えられてコスト面で不当な優位性を獲得し、米企業を脅かしているというのだ。

中国の過剰な生産能力が問題なのはイエレンの指摘どおりだが、補助金政策が原因だとする主張は的外れだ。

私の世代の中国人にとって、過去40年の経済成長は夢のようだった。1990年代前半まで配給制だったのが嘘のように、今では簡単に手に入らないものを見つけるほうが難しい。

これは中国に限った話ではない。第2次大戦後の日本も同様の変貌を遂げた。輸出主導型の成長により国を再建し、産業を育成した。だが70年代に入り為替相場安定のメカニズムであるブレトンウッズ体制が崩壊し、さらにオイルショックが発生。

日本企業は消費主導型の国内成長に注力せざるを得なくなり、結果として生産能力が過剰に拡大し、80年代を通じてアメリカとの貿易摩擦に悩んだ。

中国の生産能力が過剰なのは歴然としている。中国経済が世界のGDPに占める割合は18%だが、製造業生産高では35%を占める。こうした不均衡は輸出で補正されるはずが、中国の輸出企業は需要の減少と地政学的緊張の高まりに直面し、ますます厳しい価格競争にさらされている。

莫大な生産能力の根本にあるのは、貯蓄重視型の社会だ。中国人は伝統的に自助意識が強く、政府にセーフティーネットの構築を求めるよりも、何かあったときのために貯蓄で備えようとする。

輸出の急成長に牽引される形で、貯蓄率は90年代末の35%から2010年には52%まで上昇した。現在は45%に落ち着いており、毎年7兆9000億ドルが貯蓄に回る計算だ。これが国内投資を刺激し、過剰生産の土台を築いている。

問題を悪化させているのが、貯蓄を革新的なビジネスに振り向ける活発な資本市場の不在である。中国では社会融資総量の70%を銀行融資が占め、銀行は革新的な事業への投資に消極的だ。

そのため投資はEVや代替エネルギーやAI(人工知能)など一部の有望なテック産業に集中し、こうした分野の過剰生産につながっている。

問題を解消するにはどうすればいいのか。内需拡大が効果的なのは言うまでもないが、国民の貯蓄行動を変える必要があるため時間がかかる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米アトランタ連銀総裁、任期満了で来年2月退任 初の

ワールド

トランプ氏、ネタニヤフ氏への恩赦要請 イスラエル大

ビジネス

NY外為市場・午前=円が9カ月ぶり安値、日銀利上げ

ワールド

米財務長官、数日以内に「重大発表」 コーヒーなどの
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 2
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働力を無駄遣いする不思議の国ニッポン
  • 3
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 4
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 7
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「麻薬密輸ボート」爆撃の瞬間を公開...米軍がカリブ…
  • 10
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中