最新記事
米中対立

米輸入関税の抜け穴「デミニミス」が激安中国製品の流入招く TikTokもEC参入か

2023年8月14日(月)11時27分
ロイター
「SHEIN(シーイン)」のロゴとショッピングカート

中国製品を販売する通販サイトが急速に台頭している。追い風となっているのが、たった10ドル(約1430円)のドレスなど低価格製品を関税免除で米国の個人消費者のもとに届けることを可能とする、数十年来の「抜け穴」だ。写真は「SHEIN(シーイン)」のロゴ。2020年10月撮影(2023年 ロイター/Dado Ruvic)

中国製品を販売する通販サイトが急速に台頭している。追い風となっているのが、たった10ドル(約1430円)のドレスなど低価格製品を関税免除で米国の個人消費者のもとに届けることを可能とする、数十年来の「抜け穴」だ。

これは、いわゆる「デミニミス」ルールによって、800ドル以下の個人宛小包は関税を免除されていることが原因だ。あらゆる小売企業がこの恩恵に浴することができるが、圧倒的にこれを活用しているのは「SHEIN(シーイン)」やPDDホールディングス傘下の「Temu(ティームー)」だ。中国系の短編動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」が新たに展開するオンライン通販ビジネスも、ここに加わる可能性がある。

米下院の委員会が6月に発表した報告書では、「デミニミス」対象となる米国向け出荷のうち、30%以上をシーイン、ティームーの両サイトが占めていた可能性が高いと推測している。

この報告書は「デミニミス」に対する連邦議会の関心が高まっていることを反映している。中国製品については、強制労働により生産された製品を禁止する法律に基づき、高率関税と税関での検査が課せられているが、この「デミニミス」が、それを回避する抜け道となっているという批判がある。特にやり玉に挙がっているのが、米国での新規株式公開(IPO)を検討しているシーインだ。

中国で設立されたシーインはロイターに対し、2012年に米国市場に参入して以来、米国の税法・関税法を順守しているとした。

シーインの戦略担当グローバルヘッドを務めるピーター・ペルノデイ氏は、シーインの成功は「デミニミス」に依存するものではないと語った。成功の理由はむしろ、同社がオンラインでの流行をチェックし、アパレル製品の製造元への初回発注を少量に抑えるという手法をとっていることだという。その製品ラインの販売が好調な場合だけ発注量を増やすので、過剰在庫による高いコストを回避できている、と同氏は説明した。

シーインは7月末、米国アパレル・フットウェア協会(AAFA)に「デミニミス」の改革を求める書簡を送ったが、具体的な政策提言は行わなかった。米上院に対する情報開示からは、同社がここ数四半期、「貿易および税制に関する事項」について連邦議員へのロビー活動を行ったことが分かる。

2022年に米国での事業を開始したティームーにもコメントを求めたが、回答は得られなかった。また北京を本拠とする字節跳動(バイトダンス)傘下のティックトックからも、現時点でコメント要請への回答はない。

米税関・国境警備局のデータによれば、「デミニミス」対象の米国向け出荷額は2022年には6億8550万件に上り、2018年比で67%近く増加した。国土安全保障省のロバート・シルバーズ政策担当次官は7月、連邦議員に対して、1日約200万─300万個の小包が流入している計算になる、と語った。

企業経営
ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パートナーコ創設者が見出した「真の成功」の法則
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

12月FOMCでの利下げ見送り観測高まる、モルガン

ビジネス

米シカゴ連銀総裁、前倒しの過度の利下げに「不安」 

ワールド

IAEA、イランに濃縮ウラン巡る報告求める決議採択

ワールド

ゼレンスキー氏、米陸軍長官と和平案を協議 「共に取
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中