最新記事
サプライチェーン

スーダン戦闘長引けばコーラなど炭酸飲料が飲めなくなる!? 重要原料アラビアガムの供給止まる恐れ

2023年5月3日(水)17時13分
ロイター

ガム・アラビックUSAを経営するモハマド・アルノア氏は、現時点では、スーダンの農村地域からアラビアガムを追加調達することは、国内の混乱や道路封鎖のため「不可能」だと述べた。同社はアラビアガムを健康サプリメント製品として消費者向けに販売している。

アラビアガムがなければペプシもコカ・コーラもお手上げ

ケリー・グループや、スウェーデンのガム・スーダンなど他のサプライヤーによれば、現地の窓口との連絡が困難になっており、アラビアガムの出荷拠点であるスーダン港では民間人の避難が優先されているという。

ムンバイを拠点とする輸入企業、ビジェイ・ブラザーズでマネジングディレクターを務めるジネシュ・ドシ氏は、「戦闘のせいで、弊社のサプライヤーは必需品の確保に苦労している」と語る。「買う側も売る側も、いつ事態が正常化するか全く分からない」

アラビアガム輸出企業であるAGPイノベーションズを保有するアルワリード・アリ氏は、顧客がアラビアガムの調達先としてスーダンに代わる国を探していると話す。

AGPイノベーションズでは、フランスのルーアンを本拠とするネクシラSASや、イリノイ州ウェストチェスターのイングレディオンにアラビアガムを販売しているという。両社は、ペットフードや炭酸飲料、栄養補助バー食品などを製造するメーカー向けに原材料を供給する主要サプライヤーだ。

イングレディオンの広報担当者はメールで、「顧客への供給をしっかりと続けていくため、ビジネス全体で先手先手の取り組みを実施している」と回答した。

ペプシコは、サプライチェーンやコモディティーの問題についてはコメントを控えた。コカコーラにもコメントを求めたが、回答は得られなかった。

「ペプシやコカコーラといった企業は、製品のレシピからアラビアガムがなくなったらお手上げになる」と語るのは、アラビアガムの供給で世界のトップテンに入るアグリガムでマーケティング・開発担当ディレクターを務めるダニ・ハダド氏。

業界関係者によれば、食品・飲料メーカーは、製造プロセスの中で、吹き付け乾燥で粉状になったアラビアガムを使用しているという。化粧品や印刷関連メーカーであれば代替材料を使うこともできるかもしれないが、成分の分離を防ぐためにアラビアガムを使う炭酸飲料の場合は、そうした逃げ道がない。

消費財産業にとってアラビアガムがどれほど重要であるかは、米国による1990年代以来の対スーダン制裁においても、この商品が対象から外されていることからも分かる。必要不可欠なコモディティーであると同時に、闇市場の出現を懸念したためでもある。

スーダンの遊牧民族は、アカシアの木からドロリとした琥珀(こはく)色の樹液を採取する。精製とパッケージングは国内全域で行われている。ガム・スーダンによれば、数千世帯の生計を支えており、高級品では1トン約3000ドルもする。

品質の劣る低価格のアラビアガムならスーダン以外でも産出するが、前出のアルノア氏は、原料として好まれる製品は、スーダン、南スーダン、チャドのアカシアからしか採れないと語る。

ハルツームのサバンナ・ライフ・カンパニーでゼネラルマネジャーを務めるファワズ・アッバロ氏は、アラビアガム60─70トンの受注を抱えており、輸出を予定しているものの、戦闘のせいで実現するかどうか危ぶんでいる、と話す。

「食料や飲み物の入手さえ安定していない。ビジネスもこの先は不透明になるだろう」とアッバロ氏。「どんな商売も当面は滞るのではないか」

(Richa Naidu記者、Jessica DiNapoli記者、Rajendra Jadhav記者、翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2023トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

投資
「FXで長期投資」という投資の新たな選択肢 トライオートFX「世界通貨セレクト」とは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米韓制服組トップ、地域安保「複雑で不安定」 米長官

ワールド

マレーシア首相、1.42億ドルの磁石工場でレアアー

ワールド

インドネシア、9月輸出入が増加 ともに予想上回る

ワールド

インド製造業PMI、10月改定値は59.2に上昇 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中