最新記事
インタビュー

その本はアルゴリズムに「読まされて」いる──「権威主義的な読書リスト」が役立つ理由とは

2023年5月2日(火)09時10分
ニューズウィーク日本版ウエブ編集部

──しかし、読書慣れしていない人にとっては、「権威主義的なリスト」はハードルが高いのではないでしょうか。

自分の外に権威主義者を持つことは、意識してやったほうがいいことです。私たちは民主主義国家で自由に生きていると思っています。しかし、実際はまったく自由ではありません。

ネット書店にせよ、音楽サブスクリプションにせよ、AIが用意してくれたタコツボの中に閉じ込められています。

Spotifyでビリー・アイリッシュを聴くとします。リコメンド機能で提示されるのは、ビリー・アイリッシュを聴いている多くの人が聴いた曲ばかりです。そこにブルースシンガーのジミー・リードは出てきません。

AIによるリコメンドの世界は居心地がよく、楽しいものです。しかし、そこに安心して浸かっていると、偏った音楽にしか触れられないことになります。普通に生きていると、いつの間にかタコツボの中に閉じ込められている。それが、いまの社会です。

最も分かりやすい例が、ネット右翼や陰謀論に嵌まってしまう人たちですし、読書にも同じことが言えます。購入履歴や検索履歴のアルゴリズムから似たような本をレコメンドされるうちに、偏っていく。「音楽的ネット右翼」や「読書的ネット右翼」にならないためにも、自分の外に権威主義者を持つことが有効です。

──タコツボ化しないために他に気を付ける点は何かありますか?

偏らずに情報や文化に触れていこうとするとき、重要になるのは網羅性です。ですから、できるだけ多くのジャンルの古典を網羅した権威主義的なリストを選ぶわけです。

そのリストを「なんだこれ? こんなの、役に立つの?」と思いながらでも一冊ずつ潰していく。時間を超えて良いと評価されてきたような本には、自分の好悪にかかわらず、ひとまずは触れていく。読んでもいないのに文句を言うくらいなら、読んでから批評すればいい。その過程で、自分なりの価値観や審美眼を養っていけばいいのです。

――いま読んでいる本について教えてください。

私はいつも海外文学、日本文学、自然科学/社会科学、詩歌の4ジャンルを並行して読んでいます。つくり出した時間で15分ずつ、本を切り替えながら読みます。偏らないよう、自分に課しているのです。それに、仕事に関係する本や外国語の本を加えると、だいたい12冊くらいは併読しています。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

鉱物資源協定、ウクライナは米支援に国富削るとメドベ

ワールド

米、中国に関税交渉を打診 国営メディア報道

ワールド

英4月製造業PMI改定値は45.4、米関税懸念で輸

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中