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「教養=知識量」の勘違い──AIに仕事を奪われない「転の思考」を身に着ける読書術とは

2023年5月1日(月)08時05分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

以前、週刊誌「AERA」で評論家として長く音楽評の連載を持っていました。そこでは好きなロックやアンダーグラウンドミュージックだけでなく、あらゆるジャンルの音楽を取り上げるようにしていました。しかし、自分にとって関心の薄い、女性に人気のミュージシャンについて書くのは苦労しました。そんなとき、何度も読書に救われてきました。

『百冊で耕す』に詳しく書きましたが、読んだ本から本当に心に残った箇所を筆写した手帳「抜き書き帳」が役に立ちました。ライターとして書き続けてこられたのは、そのおかげです。

──その「抜き書き帳」から記事に合う文章を引っ張ってくるということでしょうか?

「抜き書き帳」はかっこいいフレーズを集めた、自選の名文集です。そうした名文を引用することで原稿が引き締めるという単純な役立て方もあるでしょう。

しかし、それはありがち過ぎる。そうではなく、作者の思考や文章の構造をお借りするんです。自分で手を動かして書き写し、事あるごとに読み返し、その一文について考える。何十年も抜き書きをしていると、一流の知性がなぜこの一文を書くにいたったのかが分かるようになってきます。

いつか使えそうな箇所には付箋を貼っておきます。「AERA」なら「A」と付箋に書いて。すると予想もしなかったタイミングで、そのとき書いているお題と、抜き書きの文章構造がカチッとつながる瞬間が来るのです。

最初は抜き書きにそんな効果があるとは思っていませんでした。しかし、3年も続けていると確実に自分が変わっていくのを実感できるようになります。


──インプットからアウトプットへ変換するときの質が読書で変わるということですか?

そうです。本を大量に読んで、思考の構造を自分の血肉にする。それは書くことの本質に近づくことです。

数十年分の「抜き書き帳」を見ていると、最初のうちは適当に書き写しています。それがやがて丁寧な字で書くようになっている。御利益に気付いたからです。

私にとって、文章を書くことは「起承転結」の「転」を書くことです。自分なりの視座、考えの道筋、感情の動きを示すこと。ファクトを書く、つまり「起承」を書くだけなら、人間が物を書く意味などありません。ファクトや知識の集積、繋ぎ合わせであれば、AIにだって書けますから。

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