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「これ残業ですか?」飲み会・接待・ゴルフの「違法性」を弁護士が解説

2023年4月27日(木)17時15分
大山滋郎 ※経営ノウハウの泉より転載

社内懇親会は労働時間になるのか

社内での懇親を深めるために、食事会や飲み会が開催されることはよくあります。こちらについても、基本的には社員同士の親睦を深めることが目的ですし、参加する人たちも楽しんで参加することが多いといえます。

とくに懇親会の中で、業務の話がなされることもなく、その時間会社の指揮命令が及んでいるともいえません。そう考えると、社内懇親会が労働時間と認められる可能性は相当低いものといえます。実際、判例においても基本的にはこのような判断のもと、懇親会は労働時間とは認められないと判断されている場合があります。

しかし、すべての社内懇親会に関して、労働時間と認められないのかというと、そんなことはありません。

■社内懇親会でも労働時間と認められる場合

社内懇親会の場合でも、特別の社員が幹事として宴会の準備をした場合や、社員の送迎役を行った場合には、その者の仕事が労働時間と評価されるのは当然のことです。

それでは、単に懇親会に参会しただけの人が、その時間を労働時間と判断される場合があるのかが問題となります。この点に関して判例は、会社が懇親会の費用を負担したなどの理由があるだけでは、その懇親会が労働時間と認めるには十分でないと判断しています。

それでは、どのような場合に、懇親会も労働時間とされるのかというと、基本的には接待ゴルフの場合と同じように考えることができます。

つまり、その懇親会において会社の業務についての話などが具体的に行われる場合で、会社の命令によって参加が義務付けられるような場合には、懇親会も労働時間と認められるとされています。このような場合には、会社の指揮命令権が及んでいると考えられるからです。

齟齬を防ぐための事前対応策

上記のように接待ゴルフや社内懇親会でも、労働時間と認められる場合と、認められない場合があります。判例を見る限り、簡単には労働時間と認められないようです。

しかし、場合によっては認められる可能性がある以上、社員との争いを予め防ぐことは重要です。まずは、懇親会や接待ゴルフへの参加が、強制なのか、嫌なら断れるものなのかを明確にする必要があります。

社員が、無理やり参加させられているという意識をもつ場合には、どうしても紛争が生じる可能性は残ります。

最後に

接待や懇親会が残業時間になるのかという問題提起自体、社内の人間関係、経営側と従業員の信頼関係がしっかりしていれば生じないものかもしれません。社員が自分から積極的に参加を希望するようなら、このような問題はそもそも発生しないからです。

そのため、社内コミュニケーションやチームビルディングへの取り組みを通じて、社員の会社との一体感を自然に強化するようにしていくことが大切でしょう。

(参考記事)「労働時間」正しく管理できてますか?立ち入り調査のポイント&よくある誤解と正解まとめ

[執筆者]
大山滋郎
横浜パートナー法律事務所 代表弁護士
東京大学法学部卒。メーカー在籍中に米国のロースクールに留学し、ニューヨーク州弁護士の資格取得。その後、勤務のかたわら司法試験に合格。外資系大手弁護士事務所在籍を経て、2007年4月1日より独立開業。現在7名の弁護士が在籍しています。一部上場のメーカーの法務、知的財産部に15年以上在籍した経験を生かして、企業法務のサポートを行います。

2023.04.24

※当記事は「経営ノウハウの泉」の提供記事です
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