最新記事

日本社会

iPhone買うと5万円の利益!? 「販売しろ」と怒声の転売ヤーに店員が従うしかない理由

2022年9月14日(水)19時00分
山野祐介(行動するお金博士) *PRESIDENT Onlineからの転載

売らないのは法律違反...回線契約も獲得できず、安売りする羽目に

言うまでもなく、このセールを打つ目的は安売りの端末を引き換えに自社回線を契約してもらうことだ。契約数が伸びなければキャリアから分配される報奨金は減っていき、最終的には閉店の憂き目に遭う。そのため、端末単体で購入されると端末を安く持っていかれてしまうだけでなく、回線契約を獲得するための武器を失うことになり、二重で痛手となる。ショップにとって単体購入を行う客は「招かれざる客」だ。

実際、単体購入を申し出る客に対し、「在庫がないのでお売りできない」と虚偽の申告を行う販売店は多く存在する。今年3月14日に総務省の「競争ルールの検証に関するWG(ワーキンググループ)」が発表した報告書によれば、情報提供窓口に寄せられた701件の通報の中で、394件が「端末単体販売拒否」「利益提供の超過疑義」に関するものだったという。

転売目的の「転売ヤー」からすれば1台買うだけで十分な利益が得られるのだから、ある程度のもめ事を承知で単体購入を強行する気持ちは理解できる。そのうえ、「売らないのは法律違反」なのだから、ある程度強気に出ることもできるし、録音を回して虚偽の証拠をつかめば、恫喝に近い立ち回りも可能だろう。

転売ヤーの独り勝ち状態

誤解のないように書いておくと、この改正電気通信事業法の施行前から、携帯電話の転売を目的とした契約は存在した。しかし、これはショップと転売ヤーの「共犯関係」であり、今回のように店側だけが一方的に損をするようなものではなかった。

たとえば月末が近くなり、契約数がノルマにどうしても足りない場合。ショップはのりかえ契約時に特価で機種を提供すると、目ざとい転売ヤーが来てのりかえ契約をしてくれる。転売ヤーは契約ルールや手続きを熟知しているから、店頭でモタつくこともない。イチかバチかで店頭に来た"素人"に営業をかけるよりも安全かつ迅速に契約を得て、ノルマ未達のピンチを回避することができるわけだ。

また、携帯電話には「各キャリア1名義あたり5回線まで」という保持の上限がある。これによって、1人が利益を乱獲する状態はある程度抑止されていた。

しかし今回の移動機販売による転売ヤーの跋扈(ばっこ)は話が別だ。移動機販売は回線契約を伴わない販売方法のため、1人で何度でも端末を買うことができてしまう。転売ヤーにとってはやりやすいことこの上ない状況だといえるだろう。

転売ヤーは「ズルい」のか

ここまで読んでいただいた方の多くは「法律の不備を突いて儲けるなんて、転売ヤーは汚すぎる」という感想を持ったのではないか。もしくは、「なんか込み入った話で、大変そうだな」くらいの感想だろうか。いずれにしても、自分とはあまり関係のない世界という感がある。

だが、日本に住んでいる人でこの問題と関わりのない人は、ほとんどいないと断言できる。それはなぜか。キャリアが端末を割引販売する原資は、当然ながらキャリアの得た営業収益から捻出されているからだ。それはつまり、「あなたが転売ヤーの食い扶持を支払っている」ということに他ならない。

格安SIMユーザーであっても同様だ。格安SIMはキャリアから回線を間借りすることでサービスを提供しており、収益の一部はキャリアに還元されている。そのため、「私はドコモもauもソフトバンクも使っていないから、関係がない」とは言えないのである。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ブラジルCPI、5月は予想上回る伸び 利下げサイク

ビジネス

カナダ中銀、市場とのコミュニケーション改善を IM

ワールド

原油先物は小幅高、楽観的な需要見通しで

ワールド

米コンステレーション、スリーマイル原発再稼働の技術
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 2

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬で決着 「圧倒的勝者」はどっち?

  • 3

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 4

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が妊娠発表後、初めて公の場…

  • 5

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 6

    長距離ドローンがロシア奥深くに「退避」していたSU-…

  • 7

    たった1日10分の筋トレが人生を変える...大人になっ…

  • 8

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 10

    【衛星画像】北朝鮮が非武装地帯沿いの森林を切り開…

  • 1

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が34歳の誕生日を愛娘と祝う...公式写真が話題に

  • 2

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 3

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車が、平原進むロシアの装甲車2台を「爆破」する決定的瞬間

  • 4

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

  • 5

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 6

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らか…

  • 7

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 8

    アメリカで話題、意識高い系へのカウンター「贅沢品…

  • 9

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 10

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中