最新記事

日本社会

iPhone買うと5万円の利益!? 「販売しろ」と怒声の転売ヤーに店員が従うしかない理由

2022年9月14日(水)19時00分
山野祐介(行動するお金博士) *PRESIDENT Onlineからの転載
ドコモショップ

ドコモの携帯ショップ *写真はイメージです winhorse / iStockphoto

<菅政権が推し進めた携帯電話料金の引き下げは、混乱を生んだだけの愚策?>

昼間から携帯ショップで飛ぶ怒号

平日昼間のドコモショップ。普段は料金を支払う人や、プランの説明を求める人が集まるが、この日は様子が違っていた。

「だ~か~ら、あるんだろ⁉ じゃあなんで売れないんだよ、違法だろ⁉ い・ほ・う‼ さっさとしろよ! 親会社にここで通報してもいいんだからな?」

携帯販売店とは思えない声の荒らげ方で、店員に詰め寄る男。普通なら警察を呼ばれてもおかしくない振る舞いだが、店員は所在なさげに下を向くばかりだ。

いったいなぜ、このようなことが起こるようになったのか。

話は2019年10月の改正電気通信事業法が施行された時点にさかのぼる。当時の総理大臣、菅義偉氏の看板施策だった「携帯料金4割値下げ」を実現するため、この法律が施行された形である。

「回線契約をする見返りとしての割引」が2万円までに

この改正電気通信事業法で、大きく変わったのは3点だ。

まずは、解約金に関する点。それまで一般的に"2年縛り"と言われてきた解約時の違約金上限が1000円に設定された。これによって、違約金を盾に解約を阻止することが難しくなったため、ユーザーは気軽に回線を解約し、他社へ移ることが可能となった。しかしこれに伴い、長期契約者向けに割引やキャッシュバックといった形で提供される特典も、170円までが上限となった。

2点目が、端末代金と通信料金の完全分離だ。これまでは端末を購入した際に、「月々サポート」や「毎月割」などの名称で通信料金が毎月割引され、実質的に端末が安くなる施策があったのだが、この完全分離によってこうした割引は難しくなった。

総務省の狙いは通信事業者間の競争を活発にすることだった。毎月割引という形で付与される月々サポートは「解約すると割引が受けられない」とも言い換えられる。総務省とすれば、こうした抜け道をふさぐのは当然だろう。

そして次に大きく変わったのが、端末代金の値引き上限である。総務省は携帯料金の下がらない原因に、端末代金の割引にキャリアの資金が使用されている点が大きいと考えており、新規契約時に購入する端末代金の値引き額を税抜2万円までと定めた。この結果、「回線契約をする見返りの割引は2万円(税込み2万2000円)まで」となった。

当時、「月々サポート」「毎月割」などの名称で提供されていた端末購入の補助施策や、セール時の大幅な割引はできなくなり、ユーザーは端末代金のほとんどを自腹で負担することとなった。

割引がなくなると直販で買ったほうが安い

もともと携帯キャリアが販売する端末の定価はキャリアの利益分が上乗せされており、メーカーの定めた価格より割高であることが多い。

例えば、ソフトバンク版iPhone 13 Pro(128GB)の販売価格は16万9920円だ。しかしこれをAppleから直接購入すると、14万4800円。機能にまったく差はないにもかかわらず、約2万5000円も高い。契約時に2万円の割引が入ってもなおAppleから買ったほうが安いのだから、割引がなくなると積極的に買う理由は見当たらない。

改正電気通信事業法によってプラン料金は下がり、格安SIMを含めた通信事業者間の競争が活発になった面もあるものの、端末は気軽に入手しづらくなるという結果を招いた。

これによって、一般ユーザーが割引施策に頼らず、お得に携帯電話を運用しようと考えた場合、「家電量販店やメーカー直販で(わずかでも割引の入った)端末を買い、格安SIMのSIMカードを挿入して使う」というのが最適解になる。これが日本にとって良いことか悪いことかは私には判断できないが、ミクロな範囲での経済合理性を追求すると、こうなるはずだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減

ビジネス

米KKRの1─3月期、20%増益 手数料収入が堅調

ビジネス

米フォード、4月の米国販売は16%増 EVは急減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中