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ロシア、天然ガスの供給停止をちらつかせ ドイツは耐えきれるか

2022年3月10日(木)10時36分
ノルドストリーム1のパイプ

ロシアはウクライナ危機を背景に、パイプライン「ノルドストリーム1」を通じたドイツへの天然ガス供給を停止する可能性をちらつかせている。 写真はノルドストリーム1のパイプ。独ルブミンで撮影(2022年 ロイター/Hannibal Hanschke)

ロシアウクライナ危機を背景に、パイプライン「ノルドストリーム1」を通じたドイツへの天然ガス供給を停止する可能性をちらつかせている。今年1、2月に欧州に供給されたロシア産天然ガスの60%は、このルートを通じたものだった。

欧州の天然ガス価格は急騰。実際にロシアが完全に供給を止めた場合、欧州一の経済大国ドイツは持ちこたえられるのか、という疑問が浮上している。

<この冬を乗り切れる天然ガスがあるか>

ある。ドイツの天然ガス貯蔵システム運営業協会INESによると、貯蔵施設の充てん率は先月時点で35%弱と、2月としては過去最低だった。しかしこの冬の発電と家庭の暖房を賄うには十分な量だ。ドイツは4150万世帯の半分が暖房を天然ガスに頼っている。

<供給が止まると来冬はどうなるか>

ロシア産天然ガスの供給が止まった場合、最も厳しい影響が出るのは来冬だろう。

供給が今ストップし、夏の終わりまでに貯蔵施設が充てんされないとすると、ドイツは暖房用、そして場合によっては発電用の天然ガス供給も割当制とせざるを得なくなるかもしれない。

ドイツ政府は3段階の非常時計画に則り、家庭と病院などの重要機関への供給を優先することになるだろう。欧州連合(EU)全体もこうした方式を採用しそうだ。

生産活動に天然ガスを必要とする製造業者の一部は、生産中止を迫られるかもしれない。

エネルギー価格は急騰し、経済全体にも悪影響が及ぶだろう。欧州の家計と企業は既にエネルギーの供給ひっ迫に加え、その他の財・サービス価格の上昇に苦しんでいる。

ドイツ・エネルギー水道事業連合会(BDEW)によると、同国の製造業は1月の電力料金が前年同月に比べて約25%も上昇した。しかもこれはロシアがウクライナに侵攻する前だ。

このためドイツの産業団体は、対ロシア制裁に賛成しつつも、制裁をエネルギー分野に広げることには反対している。

ショルツ首相は7日、EUは「公共サービスや市民の日常生活」に必要なエネルギーを供給する上で、ロシア産天然ガスに代わるものを持たないと述べ、自らの天然ガス制裁への反対姿勢を擁護した。

<ドイツの対策>

政府はエネルギー調達源を多様化し、ロシアへの依存を減らすために複数の措置を公表している。

同国は2年以内に初の液化天然ガス(LNG)輸入ターミナルを稼働させたい意向。国内の天然ガス取引拠点に対し、15億ユーロ(16億ドル)相当のLNGを購入してパイプラインで別のEU加盟国に供給するよう求めた。

政府はまた、石炭火力発電所の稼働年限を延長することで、電力供給が不足した場合に再稼働できるようにしたい考え。家庭の暖房に使う天然ガスの節約につながる可能性がある。

ドイツでは昨年、電源の27%が石炭、15%が天然ガスだった。

ただ、経済・環境関連の省庁は、同国に残っている原子力発電所の稼働延長案は却下した。アナリストによると、原発の稼働延長も天然ガス依存を減らすのに役立つ可能性がある。

[ロイター]


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