最新記事

東アジア

日本や韓国の経済「減速」の原因は、企業のアメリカ的「短期主義」にあり

SQUID GAME ECONOMIES

2022年1月5日(水)12時16分
グン・リー(ソウル大学特別名誉教授〔経済学〕)
イカゲーム

PHOTO ILLUSTRATION BY KIM HONG-JIーREUTERS

<日本も韓国も「経済の金融化」を経て、すでにアングロサクソン型の経済構造へと移行したことで株主の短期的な利益を追求するようになった>

世界で最も視聴されたドラマの1つ、『イカゲーム』が浮き彫りにするのは、韓国の富裕層と貧困層の間で広がる格差だ。同様の格差は今や、多くの先進国に存在している。

韓国が経済的不平等に苦しんでいるのは不可解だと思うかもしれない。往年の「東アジアの奇跡」の核は、高い成長率と小さい格差にあったからだ。

1960年以降の約30年間、東アジア諸国の経済は「クズネッツ曲線」仮説のとおりに進展していた。経済発展が始まると、当初は格差が拡大するが、成長が持続するなかで次第に縮小するという仮説だ。だが、こうした平等型の成長は遅くとも2000年代前半には終わった。

現代韓国の資本主義は、より有害なようだ。理由はおそらく、投資削減や低成長、高格差という側面を持つアングロサクソン型資本主義への接近にある。

実際、最近のデータが示唆するように、韓国と日本は今やアングロサクソン陣営に参入している。国民所得全体に上位10%の所得が占める割合は世界的に増加しているものの、特にアメリカと東アジアでその傾向が強い。2010年代の上位10%の所得シェアは、アメリカが最大の45%超。韓国は45%で、日本は40%だった。

さらに、韓国のGDP成長率は日本と同じ道をたどり、この20年間に徐々に低下している。1980~90年代の年間成長率は6~7%だったが、2000年代前半に潜在成長率が約5%になり、同年代後半は3.7%。10年代前半は3.4%で、同年代後半には2.8%に落ち込んだ。

東アジアの先進国を「アメリカ化」に駆り立てているのは何か。1つの答えは、GDPに金融部門が占める割合が高まり、配当金支払いが企業利益の再投資の規模を上回る「経済の金融化」だろう。

1997年の通貨危機の際、IMFによる救済の条件とされた経済金融化に乗り出して以来、韓国経済は株主中心のアメリカ型資本主義に近づいていった。企業が利益を再投資する東アジア的慣行と対照的に、金融市場の大幅開放で自社株買いが解禁され、配当金支払いの増加が奨励された。以来、国内成長や雇用創出が縮小する一方、外国人の韓国株購入が激増した。

現在、韓国の大企業はアメリカ式に、純利益の約4割を株主に配分している。17年には、サムスンが配当金を1年ごとではなく、四半期ごとに支払うようになった。年配当は、短期主義のアングロサクソン型と異なる東アジア型資本主義の長所と見なされていたのだが。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ECBが金利据え置き、4会合連続 インフレ見通し一

ビジネス

米新規失業保険申請件数、1.3万件減の22万400

ビジネス

米11月CPI、前年比2.7%上昇 セールで伸び鈍

ワールド

米、台湾への武器売却を承認 ハイマースなど過去最大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 2
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 6
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 7
    円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?
  • 8
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 9
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 10
    欧米諸国とは全く様相が異なる、日本・韓国の男女別…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中