最新記事

コミュニケーション

成功する情報発信に共通する「ナラティブ」とは、戦略PR第一人者が解説

2021年10月19日(火)19時34分
flier編集部

分断が進むなか、高まりつつある「共体験」の価値

── ナラティブがビジネスの世界でこれほど重視されるようになった背景は何ですか。

背景としては、ニューノーマルの3つの変化が影響しています。それは、「共体験」の価値の高まり、「社会的距離」の見極め、「自分らしさ」が問われる状況です。

SNSの浸透により、誰もが気軽に発信できるようになり、似た価値観をもつ人たち同士の共体験が深まっています。一方で私たちは、ネットのアルゴリズムの影響やウイルスへの恐怖などによって、実際よりも自分と近い価値観の人たちに囲まれているように錯覚しやすくなっている。自分とは異なる価値観の存在に気づきにくくなり、排他的になりやすい環境に置かれているのです。これが「分断化」を加速させているのです。

そんな状況下でも社会全体を巻き込めるもの、それが一つ一つのストーリーの上位概念にあたるナラティブです。企業やブランド側に必要なのは、一方的に共体験を味わえる場を提供するのではなく、自分たちも共体験の輪のなかに入っていくこと。ナラティブを理解し実践することで、人々との深くて持続的な結びつきが生まれ、業績や企業価値の向上につながっていく。それがナラティブカンパニーの要諦です。

冷凍餃子の「手間抜き論争」がバズった理由

── 本書ではナラティブを企業価値向上につなげているナラティブカンパニーの事例が、パタゴニアやアマゾン、ネットフリックス、メルカリなど豊富に紹介されています。

いずれも示唆に富む事例ですが、マーケティングの観点でナラティブの実践をイメージしやすいのは、味の素冷凍食品の餃子の事例です。

発端は2020年8月にツイッターに投稿されたある女性のつぶやきでした。疲れて夕食に出した冷凍餃子に、夫が「手抜きだよ」と。それに対し、同社の公式ツイッターは次のような投稿をしました。「冷凍餃子を使うことは、手抜きではなく『手間抜き』です」「冷凍食品を使うことで生まれた時間を、子どもに向き合うなど有意義なことに使ってほしい」。もともと冷凍食品に対して「手軽だがあまりおいしくない」というネガティブなパーセプション(認識)があり、味の素冷凍食品もそれを変えることが大事な業界の課題だととらえていました。

また公式ツイッターの「中の人」は、企業やブランドの「存在意義」、つまりパーパスを理解している社員でした。同時に、ご自身も二児の母親で、「自分ごと」として本音を語る部分があったのでしょう。この投稿には約44万いいね!がつき、大反響を呼んだ。メディアでも大きく取材され、「手間抜き論争」は加速していきました。

もちろんバズって終わりではありません。その後、同社は「従業員が家庭のかわりに手間と愛情をこめてつくっている」ことを可視化する動画をわずか1か月で制作し、公開へ。こうして「手間抜き」ナラティブが浸透していった。これはネットフリックスでいうところの「社員が指示ではなくコンテキスト(文脈)で動く」を体現した事例だといえます。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ベトナム、所得税減税へ 消費刺激目指す=国営メディ

ビジネス

イタリア金融業界、3年間で110億ユーロの増税へ

ワールド

自民との政策協議は大きく前進、野党とは「一区切り」

ビジネス

通商政策の影響受けた海外の経済・物価巡る不確実性、
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体…
  • 5
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 6
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 7
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    ホワイトカラーの62%が「ブルーカラーに転職」を検討…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 1
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中