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日本国民の給料がどうしても上がらない決定的な理由 経済要素のほかにも妨げる慣習がある

2021年10月23日(土)12時30分
坂口孝則(調達・購買業務コンサルタント、講演家) *東洋経済オンラインからの転載

ただし、これは①で挙げた製造業中心史観から見ると仕方がない。会社側は、社員が加齢とともに職場や業務全体に詳しくなって仕事ができるようになると考えている。その前提である以上は、経験年数とともに社員の給与を上げる制度にするのは仕方がないともいえる。

クビにならない、クビにしない、という流動性の低い状態のため、代わりに給与の水準は下がる。逆にいえば、社員は安定性と給与の低さゆえに、安定した雇用を獲得している。

一度上げてしまったらなかなか下げにくい

③ 日本人給与の上方硬直性

そして①②に続いて、給与の上方硬直性がある。どのような仕事をしていても、成果をあげたら、その分を給与に反映すればいいと普通は思う。実際にフリーランスならば働いた成果分だけ収入になる。

しかし、会社員はあくまで会社で働いた年数をベースに給与が決まる(①)。もし、成果に連動しても給与を上げてしまうと、実際の問題としては、その後に、なかなか下げることができない。30万円の月給だった社員を、優秀な成績だからとして40万円に上げるとする。その後、芳しくない成績になったとして、30万円に戻すかというと、なかなか下げられない。

少なくとも経営者も労働者側も下げることに逡巡する。かといって解雇するのも難しい(②)。そこで選ばれる選択肢は、「急激には給与を上げないし、下げもしない」となる。

これを、上がる方向には進まない意味での、上方硬直性という。

また現実的には、これに付随した問題がある。よくビジネス書やビジネスサイトでは「ジョブ型」への移行が勧められている。これは、個々人の仕事=ジョブを明確化し、それに応じて仕事の遂行内容や成果を規定しようとする試みだ。

この理屈はわかるし、実現したらいいと私は思う。しかし、現場ではなかなか難しい。ジョブ型とは人に値段がつくのではなく、ジョブに値段がつく。だから製造業的な給与の決め方から方針転換が必要だ。ただ、もっと難しいのは社員評価だ。

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