最新記事

働き方

理想の生活と未来の成功のため、今こそ「損して得とれ」の精神を大切に

Tipping the Work-Life Balance

2021年10月15日(金)11時58分
ドリー・クラーク(デューク大学フクア経営大学院客員教授)

そう考えたのが、クリスティーナ・グティアーだ。博士課程に在籍していたドイツ人の彼女は夫と、カナダに住む友人の元で休暇を過ごす予定だった。ついでに、数年前に2人で初めて訪れて気に入ったニューヨークにも1週間滞在することにした。

この休暇目的の旅行をキャリアにも活用できるのではないか──。博士論文の指導教官に知り合いはいないかと尋ね、紹介されたニューヨーク市立大学シティーカレッジの教授はグティアーを講演に招待。感心した教授が、著書で彼女の研究を引用する結果につながった。

休暇をキャリアに生かすのと同時に、逆の機会も探した。グティアーは親しくなったオーストラリア人の教授から、南オーストラリア大学の客員研究員のポストに誘われていたが、都合がつかなかった。今がチャンスかも、と気付いたのは妊娠したときだ。

同大学があるアデレード行きの飛行機に一家で乗り込んだのは、娘が生後9カ月の時。夫が育児休暇を取得できるぎりぎりのタイミングだった。グティアーが新しい仲間と共同研究を進める間、夫は太陽が輝くオーストラリアで2カ月間、子育てに専念することになった。

旅行とキャリア形成をクリエーティブに一体化する方法を見つけた点では、写真家のノストランドも同じだ。「写真を撮り始めたときに夢見たのは、どこかへ派遣されること。費用は向こう持ちで旅をすることだった」

ノストランドは歴史的な衣装のデザインを専門とする女性と知り合った。「私と出会う前、彼女はベネチア・カーニバル用のドレスをデザインして、友人らと参加していた。でもiPhoneでは、本物のカメラマンが随行撮影した写真と同じものは撮れない」

そこである年、彼女は一緒に来ないかとノストランドを誘った。これまでに彼女とベネチアへ2度旅行し、パリやベルサイユ、「ラベンダーの花の季節の南仏」も訪れた。

大した取引ではないと思うかもしれない。「昔ながらの写真家に聞けば、ベネチアでの撮影に対価が支払われるべきだと言うだろう」

だが、本人はそう考えていない。友人の女性デザイナーはインスタグラムで多くのフォロワーを持つが、リッチではない。「(彼女やその友達から)カネを搾り取っても誰も満足しない。いずれにしても、私を雇う予算はないし。それに、ただで楽しむ休暇はプライスレスな体験だ」

ただし、手に入れるのは無料旅行だけではない。旅行中に撮影した写真の権利はノストランドのものだ。どれも息をのむほどみずみずしく、独特の雰囲気に満ちている。「作品を現像して売ることもできる。それを目にした人が、雑誌の撮影のカメラマン候補に私を挙げる日が来るはずだ。雑誌の撮影は、より大きな目標の1つだから」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ステランティスCEO、米市場でハイブリッド車を最優

ビジネス

米ダラー・ゼネラル、通期の業績予想を上方修正

ビジネス

実質消費支出10月は3.0%減、6カ月ぶりマイナス

ワールド

マラリア死者、24年は増加 薬剤耐性や気候変動など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 7
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 8
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 9
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 10
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中