最新記事

金融

レバレッジを効かせた取引で問題のアーケゴス、過剰なリスクテイク象徴 投資家の熱気冷めず

2021年3月31日(水)10時39分

レバレッジを効かせた取引で損失を出した投資会社アーケゴス・キャピタルを巡る問題は、投資家のリスクテイクが過剰になっていることをまたしても浮き彫りにした。投資家の間で高揚感が広がっていることを示す兆候は他にもあり、様々な資産クラスで過剰なリスクテイクが起きる可能性がある。写真はアーケゴスが入居するビルの前を歩く人。ニューヨークで29日撮影。(2021年 ロイター/Carlo Allegri )

レバレッジを効かせた取引で損失を出した投資会社アーケゴス・キャピタルを巡る問題は、投資家のリスクテイクが過剰になっていることをまたしても浮き彫りにした。

S&P総合500種指数は1年間で約80%急騰したが、投資家のリスクテイク意欲は、まだまだ満たされていないようだ。

アーケゴス問題の影響は、これまでのところ、米メディア大手のバイアコムCBSやディスカバリーなど一部の株式、クレディ・スイスなど、アーケゴスと取引のあった金融機関の株式に限られているとみられ、市場全体を揺るがすには至っていない。

ただ、投資家の間で高揚感が広がっていることを示す兆候は他にもあり、様々な資産クラスで過剰なリスクテイクが起きる可能性がある。

具体例を挙げれば、特別買収目的会社(SPAC)や、ビットコインなど仮想通貨の人気ぶりだ。また、オンライン掲示板レディット上のフォーラム「ウォールストリートベッツ」など、ネット上の情報拡散で個人投資家の買いが膨らんだゲームストップ株は850%暴騰した。

ダイナミック・ベータ・インベストメンツのアンドリュー・ビア氏は「こうした例が、今後も次から次へと続くのではないか。数年後に振り返った時に、あの時は基準が甘くなり、驚異的なリスクテイクが広がった時期だったと思うかもしれない」と述べた。

ゴールドマン・サックスのリサーチによると、家計、ミューチュアルファンド、年金基金、海外投資家が保有する全資産の50%は株式となっている。20年前のハイテクバブル以降で最高の水準という。

多くの投資家は、こうした株式投資にオプションを通じてレバレッジをかけており、トレード・アラートのデータによると、昨年の株式オプションの取引は2017年の水準を85%上回った。

新型コロナウイルス流行初期の弱気相場が終わると、機関投資家も個人投資家も、将来に明るい展望を抱くようになった。BofAグローバル・リサーチのファンドマネジャー調査によると、世界経済回復への期待を背景に、コモディティー投資が過去最高水準に増加。キャッシュの保有は約8年ぶりの低水準となっている。

一方、米個人投資家協会(AAII)のセンチメント調査でも、個人投資家の51%が、株価は短期的に上昇すると予想。過去の平均水準である38%を上回っている。

刺激策が追い風

多くの投資家は、こうした先行き楽観論について、米連邦準備理事会(FRB)や米政府による前例のない刺激策や、新型コロナウイルスのワクチン接種を踏まえれば、正当化できると主張する。

FRBの複数の高官は先に、今年の経済成長率を6.5%と予測。実現すれば、1980年代以降で最高となる。昨年はマイナス3.5%と、過去70年あまりで最悪のマイナス成長だった。

OANDAのシニア・マーケット・アナリスト、エドワード・モヤ氏は「米国株の上を目指す道は、新たなリスクに満ちた、入り組んだものになるだろうが、今年は大幅高で取引を終了する可能性が高い」と指摘した。

ただ、相場の上昇が続くとの自信が強まれば、一部の投資家がリスクテイクに走り、過度なレバレッジなどを通じて利益を増幅する一方、一歩間違えれば莫大な損失を生み出しかねない。アーケゴス・キャピタルの問題も、レバレッジがうまく行かなかった事例の一つと言えるかもしれない。

関係筋によると、同社は「トータル・リターン・スワップ」というデリバティブ取引を行っていたが、これは原資産の値動きから得られる収入を原資産を保有せずに受け取れる契約だ。同社の資産は約100億ドルだったが、500億ドル以上のポジションを保有していたという。

ウォーラックベス・キャピタルのシニアストラテジスト、イリヤ・フェイジン氏は「今年に入り、非常に強い地合いにシフトしたことは間違いない。人々が非常に強い自信を持つようになれば、何が起きるのかは明白だ。さらにリスクを取ることになる」と述べた。

(Saqib Iqbal Ahmed記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・フィット感で人気の「ウレタンマスク」本当のヤバさ ウイルス専門家の徹底検証で新事実
・新型コロナ感染で「軽症で済む人」「重症化する人」分けるカギは?
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

鉄鋼関税、2倍の50%に引き上げへ トランプ米大統

ビジネス

アングル:トランプ関税、世界主要企業の負担総額34

ワールド

トランプ米大統領、日鉄とUSスチールの「パートナー

ワールド

マスク氏、政府職を離れても「トランプ氏の側近」 退
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中