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コロナ禍で経営危機の航空業界、ワクチン大量空輸の恩恵

2020年12月10日(木)12時21分

HSBCのアナリスト、アンドリュー・ロベンバーグ氏はノートで「並外れた状況によって貨物便業界の全体の利ざやは今年、絶好調になる。来年もワクチン配布効果で、そうした水準が続く」と予想した。ワクチン空輸に参加する航空会社は、極めて大きな収益効果を期待できるという。

IATAの試算によると、地球上の全ての人に1回ずつ接種する分量の新型コロナワクチンを空輸するには、大型ジェット機クラスで8000機が必要。空輸が不要な配備分はわずかな可能性がある。その上、新型コロナワクチンの多くは1人2回の接種が必要だ。

業界ニュースレター「ロードスター」は、ワクチン輸送を優先するため他の貨物の予約便が取り消されている貨物輸送業者がいると報じた。

ユナイテッド航空の貨物責任者、クリストファー・ブッシュ氏はロイターに、「今の市場では航空便の輸送能力が大きく不足している。われわれはこれからやって来るワクチンだけでなく、これまでも運んでいた貨物をいかに運び続けるかのバランスを取る必要がある」と話した。

混乱リスク

世界の290社の航空会社が参加するIATAはワクチンに関して、旅行制限や搭乗者に対する隔離措置などが緩和されなければ大規模な接種に支障が出ると警告。IATAの貨物責任者グリン・ヒューズ氏は「世界では旅客便がすべて停止したことで貨物便の運航もなくなってしまった場所もある」と訴える。

一方で、国連児童基金(ユニセフ)は今年、世界各地のロックダウンで一時、ポリオ(小児まひ)などの予防接種計画が打撃を受けた。こうした経験から既に教訓は得たとしており、現在は貨物便の値上げに抵抗することに焦点を当てている。ユニセフは貧困状態の92カ国に新型ワクチンを配給する計画だ。

ユニセフの輸送部門責任者パブロ・パナデロ氏によると、ユニセフはワクチンの輸送能力を計画し輸送料金の抑制を続けるため、航空会社側と「初期の協議」をしている。

貨物便の料金はコロナ流行前に比べてまだ2倍の水準という。「ユニセフとして、航空会社側に人道的配慮や、(ワクチンを配給する)ユニセフの取り組みの社会的な重要性さえ意識してもらおうとしている。こうした取り組みは彼らの業界のビジネスの正常化にもつながるのだから」と話す。

関係者は、貨物便業者が現在の価格決定力を全面行使すれば、企業イメージが悪くなって風評リスクに直面する可能性があると語る。カーゴ・ファクツ・コンサルティングのマネジングディレクター、フレデリック・ホースト氏は「利益至上主義と見られるのは見た目が悪い」と指摘した。

ただホースト氏は、新型コロナ流行により世界中でマスクや医療機器の獲得競争が生じた事態が再び起こることはないとみる。当時は各国政府が仕立てた多数のチャーター便がマスクや医療機器を運ぼうとし、そうした便は割高な料金を払わされたという。

ホースト氏によると、ワクチン空輸は顧客に賢い選択肢を提供する物流会社が担う見通しで、「そうした顧客はいつ(値決め)交渉を中断するかのタイミングを理解しているし、うまくまとまらなければ顧客は他の航空会社に向かうだけだ」と話した。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

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