最新記事

ビジネス

ビジネスの基本「スーツ」はコロナ禍を生き残れるか?

2020年10月21日(水)18時07分

ニューサウスウェールズ州の企業ニューイングランド・ウールは、イタリアの繊維メーカー向けのウールを地元の牧羊業者から調達している。同社マネージングディレクターのアンドリュー・ブランチ氏は、多くのバイヤーにとって供給過剰となっているのが現状だと話す。

シドニー西部の郊外にあるウール卸売市場で電話インタビューに応じたブランチ氏は、「彼らがすでに手許に抱えているウールを使い切るまでは、そもそも豪州市場に戻ってくることさえないだろう」

「小売店が開かなければ、すべてが滞ってしまう。注文に応じるためにウールを調達したのに、その注文の多くが米国や欧州全域のクライアントによってキャンセルされてしまった」

ブランチ氏によれば、オーストラリアのウール輸出額は年間30億豪ドルを超えるが、イタリアと並んでその大半を購入しているのは中国で、今となっては市場に残っている唯一の買い手だという。だが、その中国のバイヤーも、ウール購入量を減らしている。

メリノ種の羊を飼育する牧羊業者の多くは、生産したウールを納屋や倉庫施設に貯め込んでいる。もっとも、3年続いた干ばつからようやく回復しつつある牧羊業者のなかには、市場の値崩れにもかかわらずウールを売却し、何とか資金繰りを維持しているところもある。

「刈込んだ羊毛を抱え込んで価格回復を待てるような大規模なところばかりではない」と語るのは、ニューサウスウェールズ州のヤスという街の近郊で牧羊業を営むデイブ・ヤング氏。「私たちは、刈込みのあと比較的早いうちに市場に出荷せざるをえない立場にある」

ヤング氏の牧場では約4500頭の羊を飼育しているが、事業の一部を羊毛ではなくラム肉の供給に切り替えたという。

ウール製織工場の憂鬱

羊毛を生地に仕立てているイタリア北部の業者の状況を見てみよう。ボットポアラ氏は、自社の売上高が昨年の6300万ユーロから25%減少すると予想しており、回復には2~3年を要すると見込んでいる。

彼のビジネスはもっぱら婦人服用の生地を製造しているおかげで影響をある程度免れている。同業他社はもっと悲観的だ。

数世紀にわたる歴史を持つ年商5200万ユーロの同族企業フラテッリ・ピアチェンツァで総支配人の座にあるエットーレ・ピアチェンツァ氏は、「一部の事業については、売上高が50~80%落ちている」と話す。同氏は地元経済団体で製織産業部門のトップも務めている。

ボットポーラ氏によれば、彼の工場の売上高の50%以上は、特殊な方法で処理するか化学繊維のライクラを混合することによって伸縮性を高めたウールによるものだという。

というのも、製織工場関係者によれば、仮に少しでもスーツ生地への需要が残っているとすれば、汚れに強くしわになりにくい生地が求められる可能性が高く、他方でそうした生地はカジュアルウェアにも使えるからだ。

たとえばイタリアの高級服ブランドのエトロは、先日、ジャージ生地とウール・綿混紡の素材を使った「24時間ジャケット」を発売したばかりだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ

ワールド

ベネズエラ沖で2隻目の石油タンカー拿捕、米が全面封
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中