最新記事

ビジネス

ビジネスの基本「スーツ」はコロナ禍を生き残れるか?

2020年10月21日(水)18時07分

伊ビエッラにある製織企業ラニフィチオ・ボット・ジュゼッペで取材に応じるマネージングディレクターのシルビオ・ボットポアラ氏(2020年 ロイター/Flavio Lo Scalzo)

イタリアの高級服デザイナー、ブルネロ・クチネッリ氏は、最高7000ユーロ(8200米ドル、約84万3000円)もするメンズスーツを作っている。だがその彼でさえ、世界中の大半の人と同じように、ここ数ヶ月スーツを着ていない。ましてや、買うなどもってのほかだ。

「誰もが家に閉じこめられていた。3月以来、ジャケットを着るのはこれが初めてだ」 9月にミラノで最新のコレクションを発表したクチネッリ氏は、ライトグレーのブレザーを身にまとい、ロイターの取材にそう答えた。

いわゆる「ホワイトカラー」労働者のほとんどは在宅で仕事をしており、新たにお気に入りになったのはスウェットパンツだ。一部の専門家は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)が終息した後も在宅勤務のトレンドは生き残るのではないかと予測している。結婚式やパーティもいまだに、皆無とは言わないまでも、ほとんど行われていない。

行動様式の劇的な変化は、スーツやフォーマルウェアのサプライチェーン全体に甚大な影響を与えており、すべての大陸にまたがるファッション産業を混乱に陥れている。

メリノウール生産量世界首位のオーストラリアでは、ウール価格が急落し、数十年ぶりの低水準に沈んでいる。牧羊業者は厳しい苦境に追い込まれ、価格回復を願いつつ、空きスペースを探してはウールの在庫を積み上げている。

牧羊業者からウールを買い取り、高級スーツの生地を織り上げるのは北部イタリアの工場だ。ここでもアパレル小売企業からの注文が急減している。

米国・欧州では、ここ数ヶ月のあいだにメンズウェアハウスやブルックスブラザーズ、TMルーウィンなど、ビジネスウェアを得意とする複数のアパレル小売チェーンが、店舗閉鎖や経営破綻に追い込まれており、その流れはさらに続く可能性がある。

サプライチェーンのあらゆる段階の業者が、ロイターの取材に対し、生き残るための適応を強いられていると語っている。牧羊業者は他の農業形態に転換し、製織工場は、しわになりにくく汚れに強い新世代のスーツに向けて、伸縮性の高い生地を製造するようになっている。

イタリアの繊維工業の中心地であるビエッラにある製織企業ラニフィチオ・ボット・ジュゼッペでマネージングディレクターを務めるシルビオ・ボットポアラ氏は「皆、もっと楽な服を着たがり、フォーマルなスーツを着る気分になっていない」と語る。同社はアルマーニ、マックスマーラ、ラルフローレン、エルメスなどを顧客としている。

「ズームでの会議などITを駆使した働き方になると、男性はワイシャツを着て、まあネクタイくらいはするかもしれないが、あまりスーツは着ないだろう」

苦闘するメリノウール生産者

オーストラリアの高級ウール価格は新型コロナにさいまれた過去18ヶ月間で半分以下に下落した。通常ならばイタリアの製織工場がメリノウールを安定して購入してくれるのに、それがほぼ停止状態にあるからだ。

入札結果を見ると、2019年初めにはキロ当たり20.16豪ドルだったメリノウールの基準価格は、9月初めには1キロ当たり8.58豪ドル(6.1米ドル)まで下落した。その後はやや回復したものの、辛うじて10豪ドルを上回る程度だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ

ワールド

ベネズエラ沖で2隻目の石油タンカー拿捕、米が全面封
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中