最新記事

誤解だらけの米中新冷戦

TikTok・出会い系アプリ、中国への「流出」を防ぐには何が必要か【欧米vs中国】

RUSH TO KEEP OUT CHINESE CAPITAL

2020年9月16日(水)06時50分
エリザベス・ブラウ(ジャーナリスト)

英政府も限定的な外資規制法「企業法」の拡大を検討。外国政府が企業買収を進める動きに対し、議会が調査を進めており、この問題に特化した小委員会も設置された。トランプ政権はアメリカの会計基準を遵守しない中国企業を国内の証券市場から締め出す考えを示したばかりだ。

こうした規制強化は評価できる。企業爆買いを許せば、地政学的なライバルに自国企業が持つ重要な技術をみすみす譲り渡すことになるからだ。ただ、基幹技術を守るには外資規制だけでは不十分だ。

「アメリカと同盟国の企業の基幹技術を守るには、サプライチェーン全体を守る包括的な戦略が必要だ」と、米議会が設置した超党派のサイバースペース・ソラリウム委員会の事務局長を務めるマーク・モンゴメリー元海軍少将は言う。

だがそうした戦略を立てても、厄介な問題が残る。中国その他の非友好国を排除したら、資金繰りに苦しむ欧米企業を誰が救うのか。

ドイツは2年前、まさにそんな難題に直面した。オーストラリアの大株主がドイツの送電会社50ヘルツの株式売却を決定。中国国有の送電最大手・国家電網が20%を買い付ける方針を打ち出した。国家電網はそれ以前にも50ヘルツの大株主になろうと試みたが、ベルギー企業に阻止された経緯がある。20%でも買えるものなら買おうとしたのだ。

当時のドイツの法律では、政府の認可が必要なのは25%以上の取得に限られ、この取引には口出しできなかった。そこでドイツ政府は裏技を使った。国営の金融機関・ドイツ復興金融公庫に命じて50ヘルツ株を取得させたのだ。

中国資本のしたたかな秘策

これは例外的なケースで、欧米諸国にはまだこうした問題に対処する戦略がない。TikTokをめぐる綱引きを見る限り、トランプ政権は企業買収の仲介役になることで対処しようとしているようだ。一方、英政府はこれまで何度か資金に余裕がある国内企業に、中国企業が狙う自国企業の株を買うようひそかに働き掛けてきた。

しかし、これらは付け焼き刃の対応にすぎず、中国は欧米勢に長期的な戦略がないことを見抜いている。この夏、英政府が中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)の第5世代(5G)ネットワークからの排除を決定すると、中国の劉暁明(リウ・シアオミン)駐英大使はイギリスの原子力発電所建設プロジェクトからの撤退をちらつかせた。

【関連記事】中国企業は全て共産党のスパイ? 大人気TikTokの不幸なジレンマ

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ネタニヤフ氏、イラン核問題巡りトランプ氏と協議へ 

ワールド

トランプ氏、グリーンランド特使にルイジアナ州知事を

ワールド

ロ、米のカリブ海での行動に懸念表明 ベネズエラ外相

ワールド

ベネズエラ原油輸出減速か、米のタンカー拿捕受け
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中