最新記事

便乗商法

新型コロナウイルス、パンデミックの陰で暗躍「マスクブローカー」 粗悪品の温床にも

2020年4月5日(日)10時04分

怪しいオファーを避けるには

既存の流通ルートは品不足が深刻だ。2週間前、介護施設の業界団体の幹部らは、数千の加盟施設でマスクが底を突きつつあると述べていた。

プレミアが25日に発表したアンケート調査の結果によれば、回答した病院の25%は、マスクの在庫が1日分以下しか残っていないとしている。

市場の混乱により、ニュージャージー州ティーネックのホーリーネームメディカルセンターなど移動制限措置のもとにある病院が直面する課題はいっそう深刻化している。同病院では3月29日時点で23人の新型コロナ患者が死亡し、139人がウイルスに感染している。

病院の責任者アダム・ジャレット氏によると、職員は医療用品を確保しておくため、通常の流通経路以外に頼らざるをえなくなっている、という。最近入荷した1000枚のマスクは品質基準を満たしておらず、FDA認証も得ていないことが判明した。販売側は良品への交換に合意した、と同氏は言う。

ジャレット氏によれば、同病院の職員は、怪しげな売り込みを避けつつ、4日分の備蓄を維持できるだけの調達先を見つけることができたという。

100万枚提供するという売り込みもあったが、1枚9ドルで全部買い取ることが条件だった。危機前の9倍の価格での大量購入の要求だ。「悪事を働いている恥知らずな人間も確かにいるが、我々はそういう連中をうまく避ける程度の見識は持っている」

平時ならメーカーはFDAの認証を受けるために、検査結果や設計図を含め、長大な申請書を提出しなければならない。

だが、品不足の状況を考慮したFDAは先日、たとえ米国の基準を満たしているという認証を受けていないとしても、外国から輸入した医療用マスクを販売することに反対する意向はないと発表した。

「まるで値上がりを待つ株式市場」

商社の幹部によれば、上海には何千万枚ものマスクの在庫を抱えている業者があるという。N95規格を満たし、FDA認証を得ている製品は、誰もが探し求めている「ユニコーン」だという。

台湾のJHコンサルティンググループのジャスティン・フアンCOO(最高執行責任者)は、「基本的には、こういう取引業者は価格上昇を当て込んで買いだめしているだけだ。株式市場と変わらない」と話す。「1枚2ドルで仕入れた在庫があれば、今なら4ドルで売れる。明日になれば5ドルで売れるかもしれない」

中国杭州市のビジネスマン、ポール・バン氏は、最近になって友人とともにマスク販売ビジネスを始めた。

「この仕事をやるための資格を持たない人は多い。私も資格などない」と、バン氏は言う。だが、彼は金を稼ぐ必要があり、自分なら工場と買い手を直接つなぐことができると信じている。「毎日どれだけ作っても完売する」と、バン氏は言う。「だから工場側では、いま誰が買っているのかは気にしていない」

「ふだんの状況なら、工場を視察して書類もチェックする。だが今は写真を見るだけだ」

(翻訳:エァクレーレン)

Joseph Tanfani and Josh Horwitz

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

【関連記事】
・「アビガン」は世界を救う新型コロナウイルス治療薬となれるか
・NY州、新型コロナウイルスの1日死者が最多に 全米感染者は24万人
・台湾人だけが知る、志村けんが台湾に愛された深い理由


cover200407-02.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年4月7日号(3月31日発売)は「コロナ危機後の世界経済」特集。パンデミックで激変する世界経済/識者7人が予想するパンデミック後の世界/「医療崩壊」欧州の教訓など。新型コロナウイルス関連記事を多数掲載。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中