最新記事

新型コロナウイルス

「荷物がない!」 新型コロナウイルスで生産ストップし航空貨物に混乱

2020年2月9日(日)12時30分

新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大は、航空業界に旅客輸送だけでなく貨物輸送にも深刻な影を落としている。写真は中国向けの医療用防護装備を積み込む様子。2月1日、ジョージア州アトランタで撮影(2020年 UPS/Dan McMackin)

新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大は、航空業界に旅客輸送だけでなく貨物輸送にも深刻な影を落としている。低迷に陥っていた航空貨物市場は、追い討ちをかけるような新型肺炎で大混乱に陥っているとエコノミストは警鐘を鳴らす。

国際航空運送協会(IATA)は5日、新型コロナウイルスを巡る危機により、金融危機以来で最悪の状況となっていた航空貨物市場が持ち直すとの期待が打ち砕かれたとの見解を表明。「われわれは新型コロナウイルスが世界経済に及ぼす最終的な影響に関して暗中模索の局面にあり、移動などのさまざまな制限が実施されていることから、経済成長の足を引っ張るのは間違いないだろう」と述べた。

航空貨物の取扱量減少は、世界の貿易や企業活動の落ち込みをいち早く警告する指標とされている。

航空各社による中国旅客便の相次ぐ運休で、「ベリー便」と呼ばれる旅客機の貨物室を使った輸送量が減っている上に、ルフトハンザ航空などが乗務員の健康と需要の不透明感を理由に貨物専用便も減らしている。

韓国の現代自動車は、中国からの部品輸入が途絶えたため、生産を休止せざるを得なくなった。

バーンスタインのアナリスト、ダニエル・ロエスカ氏は、目下「多くのサプライチェーンが実質的に止まっているので、運ぶモノがない。人々も自宅待機を命じられているとすれば、工場の操業を続けるのは困難だ」と指摘した。

OAG提供の航空輸送データに基づくと、今週は中国発着のフライトが2週間前よりも2万5000便少なくなり、30の航空会社が運休しているという。

企業にのしかかる輸送コスト

中国から飛行機で製品を運び出そうとしている企業は、運賃の高騰という問題にも直面している。ある上海の電子商取引コンサルタントはロイターに、航空貨物運賃が5倍に跳ね上がったことで一部の顧客が出荷を延期したと語った。

S&Pグローバル・マーケット・インテリジェンスの子会社パンジバによると、ベリー便の輸送能力低下によって航空貨物運賃のボラティリティが高まっている事態を、利用業者は警戒している。

通常であれば航空輸送全体のほぼ半分をベリー便が担っているので、中国の場合、旅客便運休のために貨物専用便に依存する度合いが強まっている。

一方で主要航空会社は、中国向けベリー便の輸送能力低下について貨物便を増やして対応する計画は当面持っていない。大韓航空と全日本空輸は、マスクなど医療用品の中国向け輸出需要が増加しているものの、ロブスターやサーモンなど生鮮食品の需要減で今のところ相殺できていると説明した。

ただ今後生産や航空貨物需要がいざ上向いた際には、航空貨物市場は現在の輸送力過剰から輸送力不足に直面し、顧客や経済全般に悪影響を及ぼす恐れもある。

[マドリード/ソウル ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20200211issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月11日号(2月4日発売)は「私たちが日本の●●を好きな理由【韓国人編】」特集。歌人・タレント/そば職人/DJ/デザイナー/鉄道マニア......。日本のカルチャーに惚れ込んだ韓国人たちの知られざる物語から、日本と韓国を見つめ直す。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

三井住友FG、米ジェフリーズに1350億円を追加出

ワールド

ウクライナ、新たなIMF融資模索 現行融資は27年

ワールド

マクロスコープ:自民総裁選、高市氏に立ちはだかる二

ビジネス

英公的部門借入、公式予測を大幅に上回る 財務相の課
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中