最新記事

貿易戦争

米財務省、中国を「為替操作国」から解除 通商合意の署名控え

2020年1月14日(火)10時30分

米財務省は、貿易相手国・地域の通貨政策を分析した外国為替報告書を公表し、中国の「為替操作国」認定を解除したと明らかにした。写真は北京で2019年2月、代表撮影(2020年 ロイター/Mark Schiefelbein)

米財務省は13日、貿易相手国・地域の通貨政策を分析した外国為替報告書を公表し、中国の「為替操作国」認定を解除したと明らかにした。

報告書は公表が遅れていたが、米中両政府による「第1段階」の通商合意署名を15日に控える中、発表された。

財務省は昨年8月、中国が輸出面で不当に優位な競争環境を作り出しているとして1994年以来初めて為替操作国に認定していた。

財務省は最新の報告書で、中国は競争的通貨切り下げ抑制に向けた実行可能な取り組みを約束し、第1段階通商合意の一環として為替相場と対外収支の関連情報開示で合意したと説明した。

中国の劉鶴副首相は13日、ホワイトハウスで行われる通商合意の署名式典に出席するため、ワシントンに到着した。通商交渉に近い筋は、為替操作国認定は中国にとって実際的な影響はないものの、認定解除は中国に対する友好の重要なシンボルになるとの見方を示していた。

財務省は人民元について昨年9月上旬に1ドル=7.18元まで下落した後、10月に上昇し、現在は6.93元近辺で推移していると指摘。「この点において中国は現時点で、もはや為替操作国に認定されるべきではないと財務省は判断した」としている。

ただその上で、中国は持続的な通貨安の回避に向け断固とした措置を取り、長期的な成長見通しをより確実にするため、一段の市場開放を進めるべきだとくぎを刺した。

ロンドンを拠点とする経済政策のシンクタンクOMFIFのアドバイザーで、元米財務省高官のマーク・ソベル氏は、中国の為替操作国認定解除を評価。中国が前回、為替操作国に認定されたことは「(トランプ)大統領の逆鱗に触れたためであり、間違いだった」と指摘した。

同氏は「(前回の中国の操作国認定は)そもそも起こるべきではなかった。中国は為替を管理しているが操作はしていない」と述べた。

同氏は、中国の経常黒字は国内総生産(GDP)に対する比率としては低水準であり、中国はここ何年間も外為市場に介入していないと指摘。昨年8月の為替操作国認定は、市場がトランプ大統領の関税引き上げを予想し、人民元が対ドルで下落した時期だった、としている。

報告書はまた、ドイツ、アイルランド、イタリア、日本、マレーシア、シンガポール、韓国、ベトナムの為替慣行について引き続き懸念されるとして監視対象に指定。新たにスイスも対象に加えた。

とりわけドイツについて懸念を示し、同国政府は減税と国内投資の促進を行う責任を負っているとした。

また、実効レートベースで過大評価されているとの国際通貨基金(IMF)の評価を踏まえ、持続的なドル高に懸念を表明。実効レートは20年間の平均を約8%上回る水準にあり、ドル高の継続は持続的な貿易・経常収支の不均衡を増幅させる見通しだとした。

一方、中国の為替・通商慣行に批判的な米上院民主党のチャック・シューマー院内総務は、中国を為替操作国認定から外したことを厳しく批判した。「中国は為替操作国だ。これは事実だ」と主張。「残念なことに、トランプ大統領は、中国に対する強い姿勢を維持するよりも、習中国主席に屈することを選んだ」などするコメントを発表した。

*内容を追加しました。

[ワシントン 13日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20200121issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年1月21日号(1月15日発売)は「米イラン危機:戦争は起きるのか」特集。ソレイマニ司令官殺害で極限まで高まった米・イランの緊張。武力衝突に拡大する可能性はあるのか? 次の展開を読む。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FRBに2.5%の利下げ要求 「数千億

ビジネス

英ポンド上昇、英中銀の金利軌道の明確化を好感

ワールド

スペースX「スターシップ」、試験飛行準備中に爆発 

ビジネス

ECB、インフレ目標達成に向けあらゆる努力継続=独
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 2
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 3
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディズニー・ワールドで1日遊ぶための費用が「高すぎる」と話題に
  • 4
    マスクが「時代遅れ」と呼んだ有人戦闘機F-35は、イ…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    下品すぎる...法廷に現れた「胸元に視線集中」の過激…
  • 7
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 8
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    全ての生物は「光」を放っていることが判明...死ねば…
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 10
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 5
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 6
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 7
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中