最新記事

ビジネス

民泊の王エアビーがホテル業界を脅かす

AIRBNB’S EXPONENTIAL RISE

2019年6月5日(水)16時30分
タリク・ドグル(フロリダ州立大学助教)

サンフランシスコの本社オフィスに飾られたAirbnbのロゴマーク Gabrielle Lurie-REUTERS

<格安シェアルームから山小屋、豪邸まで――より取り見取りの選択肢を提供して既存業者を脅かす>

08年の設立以来、飛躍的な成長を遂げてきた民泊情報サイト運営のAirbnb(エアビーアンドビー)。将来株式を上場すれば、時価総額で世界の一流ホテル企業と肩を並べるのは間違いない。

既に昨年、アメリカの消費者は創業100年で売上高世界2位の老舗チェーン、ヒルトンホテルよりもAirbnbに多くの宿泊費を支払っている。

この急成長は既存のホテル業界にどんな影響を及ぼしてきたか、接客業の研究を専門とする筆者は、共同研究者のマカランド・モディとコートニー・スースラエイシナフチと米10主要都市を調べた。宿泊料金、売り上げ、客室稼働率という3要素を抽出。ボストン、シカゴ、デンバー、ヒューストン、ロサンゼルス、マイアミ、ナッシュビル、ニューヨーク、サンフランシスコ、シアトルにおける08~17年のデータを分析した。

ルームシェアから一軒家の貸し切りまで、10都市で Airbnb が提供する物件は初年度のわずか51件から5年後には5万件を超えた。17年には50万件を突破している。

その背景には、手頃な料金で他人の家に泊まってみたいという消費者のニーズがある。加えて起業から10年間、規制に縛られなかったということも要因だと考えられる。業務を柔軟に展開し、いとも簡単に新規物件を追加できた。

売りは魅力的な宿泊体験

各都市で規制強化が進めば状況は変わるが、それまでは既存のホテル業界と競争する上で有利な立場にあるわけだ。ホテル業界は規制だらけで、新規開業には数年かかる。許認可の取得や安全基準の遵守を求められ、税金も多く課される。

その隙を突き Airbnb の物件数が1%増すたびに、既存ホテルの客室1室当たりの売り上げが平均で0.02%下がった。これは小さな影響にみえるが、Airbnbの驚異的な成長率を思い出してほしい。創業以来、同社の物件数は年平均で2倍ずつ増えているので、そのたびにホテルの売り上げは2%減る計算になる。統計上の変動率を金額に換算することは難しい。だが推計によると、ニューヨークでは16年だけで既存のホテルから3億6500万ドルの売り上げを奪ったとみられる。

それに比べて、ホテルの平均客室単価と客室稼働率への影響は小さめだ。Airbnbの供給1%増に対して、ホテルの客室単価は0.003~0.03%、稼働率は0.008~0.1%の下落幅にとどまっている。

当初は格安ホテルに対する脅威が懸念されたが、実際には高級ホテルにも甚大な影響が及んでいる。Airbnbは格安から高級施設まで、あらゆる方面でユニークな宿泊体験を提供することに成功してきたようだ。豪邸、山小屋、船、はたまたツリーハウスまで、より取り見取りで憩いの場を提供している。

一方で影響が最小にとどまったのは、中規模ホテルや独立系だ。価格帯が近いのですみ分けが起き、競争が避けられたのだろう。また画一化されたチェーンホテルが嫌いな客は、あえて Airbnb を利用することなく、独立系のホテルの泊まり心地を重視している節もある。

Airbnbは既にホテル産業から十分なパイを確保したようだ。今なお、民泊に規制の網をかけようという動きはあるが、規制の在り方についてはなかなかすっきりとした結論が出ていない。

ホテル経営者にとって、Airbnbは今後も恐るべき存在であり続けるようだ。

The Conversation

Tarik Dogru, Assistant Professor of Hospitality Management, Florida State University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

<本誌2019年6月11日号掲載>

20190611issue_cover200.jpg
※6月11日号(6月4日発売)は「天安門事件30年:変わる中国、消せない記憶」特集。人民解放軍が人民を虐殺した悪夢から30年。アメリカに迫る大国となった中国は、これからどこへ向かうのか。独裁中国を待つ「落とし穴」をレポートする。

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

北朝鮮、非核化は「夢物語」と反発 中韓首脳会談控え

ビジネス

焦点:米中貿易休戦、海外投資家の中国投資を促す効果

ビジネス

米国株式市場=反発、アマゾンの見通し好感 WBDが

ビジネス

米FRBタカ派幹部、利下げに異議 FRB内の慎重論
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 7
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 8
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 9
    【ロシア】本当に「時代遅れの兵器」か?「冷戦の亡…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中