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毎年1000社ベンチャーが生まれる「すごい」国イスラエルの秘密

2019年1月31日(木)16時25分
印南敦史(作家、書評家)


 だがイスラエルは違う。この国では、多くの市民が軍隊を尊敬し、そこで勤務することに喜びを感じている。(中略)私は2004年に、テルアビブの海岸沿いの遊歩道を歩いていた時、市民たちがパトロールする兵士たちを激励し、握手を求めているのを見たことがある。あるイスラエル人は、「軍隊生活は、まるでボーイスカウトみたいでとても楽しかった」と語っていた。国民の強い期待があるだけに、8200部隊の新兵たちは夢中になって、難しい任務を全うしようとするのだ。(90~91ページより)

イスラエルと日本では国民性も政情も違い、地理的にも遠い。だが、それでも日本人は彼らから学べることがあると著者は主張している。


たとえば私がイスラエルについて調べていて、「日本に欠けている」と感じるのは、「あらゆる権威を疑い、質問攻めにしろ」という姿勢、そして年齢や序列が自分よりも上の人に対しても「そのやり方は正しくない」と異論を唱える姿勢だ。物おじせずに堂々と意見を言う「フツパー(筆者注:イスラエル人の国民性で、「大胆さ」「厚かましさ」の意)」は摩擦を生むが、同時にイスラエル社会にダイナミズムをも与えている。また移民社会に特有の、ダメもとでチャレンジする精神や、「失敗は恥ではなく、良いことだ」という価値観も、イスラエルを強くしている。(「おわりに」より)

一方、ドイツから日本の社会や経済を見ていると、特に21世紀に入ってからは、かつてのようなダイナミズムが失われていると感じるのだそうだ。

周囲の目を気にしすぎる人が多いため組織が硬直化し、外国人や少数意見の人たちをヘイトスピーチなどによって中傷し、排除しようとする姿勢も目立つということ。この点については、共感できる人も少なくないはずだ。

だからといって、国民性や考え方をすぐに変えることは難しい。しかし、「本書を通じて、日本の外で繰り広げられている、生き馬の目を抜くような頭脳争奪戦と、世界秩序の大きな変化に気づく日本人が1人でも増えれば、私にとっては望外の幸せである」という著者の言葉は、記憶にとどめておきたい気がする。


イスラエルがすごい――マネーを呼ぶイノベーション大国
 熊谷 徹 著
 新潮新書

[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。新刊『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)をはじめ、ベストセラーとなった『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。

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