最新記事

アマゾン

アマゾンが取引先に課している「冷酷な条件」の実態

有利な条件を引き出すための「カスケード」

その顕著な例が、「カスケード」と呼ばれる仕組みです。これは、他社に対して競争優位性を築こうとする取引企業の努力を利用して、アマゾンにとって有利な取引条件を引き出していく仕組みのことです。

日本の書籍流通の世界には、トーハン、日本出版販売(以下、日販)、大阪屋栗田(以下、大阪屋)といった卸業者(取次)が存在します。書籍のネット通販を行うアマゾンから見た仕入先は、この取次会社になるのですが、アマゾンは取次会社にさまざまな条件を提示して互いを競争させるのです。

そして、最も好条件の会社から順位付けをし、上位の会社から順番に購買リストを渡していきます。順位トップの会社がリストの50%を納品すると、リストは次の順位の会社に回ります。そして、そこが30%納品し、残りの20%が次の順位の会社に回るのです。この仕組みがカスケードです。

カスケードの順位を決める条件の1つが正味(仕入れ価格)です。当然アマゾンは正味の低い会社を優先しますから、大阪屋が正味80円、日販が85円、トーハンが90円という数字を提示してきたら、大阪屋が順位のトップになります。しかし、もし翌月に日販が79円という数字を出してきた場合、アマゾンは容赦なくトップを入れ替えます。

これが、多くの日本企業とは異なるアマゾンならではの合理主義的なやり方です。日本の一般的な書店では、通常「◯◯書店の△△店は大阪屋から仕入れる」と決まっているもので、「今月は日販のほうが安いから、日販に切り替えよう」とはしません。ちなみに、大手日系ネット書店などはシステム上、帳合の変更は可能なのですが、取引先に気を遣って実際には行っていません。

書店に限らず、「いつもお世話になっているから」と取引先に気を遣い、義理人情をもってビジネス判断を下すのが日本の商慣習です。しかし、そんな平和な日本のビジネスの世界に、アマゾンが本気の資本主義をもって乗り込んできたのです。

何十億という決裁権を持ったアマゾンの人間は、「この条件で承諾いただけないのであれば、契約は破棄させていただきます」と言って、平然と取引を打ち切っていきます。義理人情がまったく通用しない、アマゾンの徹底した合理的なやり方は、日本企業には衝撃的でしたが、アマゾンとの取引額が1000億円という巨額の規模になってくると、どんな不都合な条件も呑まざるをえないのです。

なぜそこまで「冷酷」になるのか

このように、アマゾンとかかわる取引企業からすれば、合理的すぎるアマゾンのビジネスのやり方が冷酷に見えるのも仕方ありません。しかし、アマゾンがこうした合理主義を徹底するのは、アマゾンが「顧客至上主義」を大切にしているからなのです。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中