最新記事

シアター

映画業界を独走するIMAXの秘密

アメリカとカナダで映画館入場者が減るなか、積極的なアジア市場進出策を取って急成長

2013年5月7日(火)17時35分
ダニエル・グロス(ビジネス担当)

巨大市場 IMAXは中国やロシアなどで急成長している (中国進出の調印式で) David Gray-Reuters

 アメリカとカナダでは映画館に足を運ぶ人が減っている。全米映画協会によれば、北米の映画館入場者数は02年から11年にかけて18%減少。1人当たりの年間来館回数は02年には5.2回だったが、11年には3.9回に減っている。

 だがIMAXシアターだけは事情が違う。通常の映画より大きな映像を記録・上映するシステムを作るカナダのIMAX社は、昨年の売上高が前年比20%増の2億8430万ドルに達したと発表。昨年1年間で125カ所にIMAXシステムを設置した。「わが社のネットワークは4年前から年平均25%の成長を見せている」と、リチャード・ゲルフォンドCEOは言う。株価はこの5年で4倍になり、時価総額は17億ドルに達した。

 なぜこんなことが可能なのか。それはIMAXが、他の映画関連企業とは違う土俵で戦っているからだ。IMAXは基本的にはハイテク企業。自社で映画を製作せず、シネマコンプレックスの建設や運営もしない。

 IMAXは「映画を見る」という体験を売る。巨大な画面、ドラマチックな映像、最高のサウンド、そして高い入場料。そこへ3Dを加えることで、映画を見るという体験を他の場所ではなかなか味わえない臨場感と立体感のあるものに変えた。
IMAXは外国市場でも急成長を見せている。各国に新たに建設されたシネコンが次々とIMAXを導入しているためだ。

 外国市場への参入には大きな意味がある。北米の中流層が映画館に興味を失ったとしても、中国やインド、ロシアの中流層の間では映画館へ行くという習慣が定着し始めたところだ。

 いまハリウッドの興行収入の約3分の2は国外のもの。ここ数年で中国のスクリーン数は5倍に増えた。「7年前、IMAXは国外ではほとんど知られていなかった。でも今は、興行収入の約半分が国外のものだ」と、ゲルフォンドは言う。

追い風はまだまだ続く

『アバター』が公開された09年に、IMAXシアターは13館しかなかった。だが昨年の『ホビット 思いがけない冒険』は、中国本土だけで約100館のIMAXシアターで封切られた。ロシアにも現在30スクリーンがあり、加えて10カ所が建設中だ。

 昨年末の時点で建設中のIMAXシアターは276カ所に上り、多くはアメリカ以外でのもの。増加傾向は今後も続くと、ゲルフォンドはみている。「中国にはIMAXはもちろん、映画館が1つもない人口100万以上の都市がざっと30ある」

 各国で高級シネコンが増えている今、IMAXはティファニーやアップル、スターバックスのような「ちょっと高級感のある人気ブランド」の仲間入りをしそうだ。「デートでウケたければ、IMAXに行かないと」と、ゲルフォンドは言う。中国のIMAXシアターのチケット価格は平均15ドル相当。モスクワにある80席のIMAXサファイアの入場料は80ドル相当だ。

 アメリカでは映画館での上映期間が短くなり、新作も早いうちに携帯電話やタブレット端末で見られるようになった。シネコンにはいいニュースではない。
だがIMAXは、この傾向が自社に有利に働くと考えている。IMAXが提供する体験は特別なので、映画製作者もIMAXのスクリーンを特別なものと考えるようになってきた。トム・クルーズ主演のSF大作『オブリビオン』は4月にアメリカで公開予定だが、IMAXシアターでは他の映画館より1週間早く上映が始まる。
ゲルフォンドは言う。「IMAXと同じ体験が自宅でできるようになるまで、私たちには追い風が続く」

[2013年3月26日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ガザで140人死亡、住民絶望「私たちは忘れ去られよ

ビジネス

ECB利下げでも住宅ローン負担増、30年まで個人消

ビジネス

ユーロ圏の成長低迷は大きな懸念材料=ポルトガル中銀

ワールド

ウクライナ、二重国籍容認へ 戦争で悪化の人口危機緩
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 3
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火...世界遺産の火山がもたらした被害は?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 6
    【クイズ】「熱中症」は英語で何という?
  • 7
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 10
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 8
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中