最新記事

財政危機

国は破産でも意外に強いスペイン企業

ユーロ危機前、賢明にもコストを抑制していた大手輸出企業は今も好調。あとは内需の落ち込みにどこまで耐えられるかだ

2012年7月24日(火)15時17分
フィオナ・ブラボ

マッチョ 闘牛の国はそんなにヤワじゃない?   Illustration by Edel Rodriguez for Newsweek

 サッカー欧州選手権で好スタートを切ったスペイン代表チーム。サッカー大国は沸きに沸くが、ユーロ危機真っただ中の国家経済に関しては暗い話ばかりだ。国債の3段階格下げに、銀行の資本増強のために1000億ユーロの支援とくれば、悲観論が広がっても仕方ない。だが「破綻近し」とささやかれるスペイン経済には楽観的要素もある。

 まずは輸出力だ。危機以前の数年間、スペインの賃金水準の上昇ペースはユーロ圏平均を上回っていたが、輸出企業大手は賢明にもコストを抑制していた。このため輸出産業はそこそこの競争力を保っている。

 スペイン第2位の銀行BBVAによれば、従業員250人以上のスペイン企業の生産性は、ドイツやイタリア、フランスと遜色ない。その結果、アジア企業の台頭後もグローバル市場で一定のシェアを維持。ドイツなどと肩を並べ、ユーロ圏の多くの国々を大きく引き離している。

 スペイン企業の競争力を示す好例が、「ZARA」で知られる衣料製造小売りのインディテックス社だ。ユーロ危機を巧みにかわし、今年第1四半期には大幅な増益さえ果たした。

 ただ問題はGDPの約30%を占める輸出が内需の落ち込みを相殺できないこと。それでも国内で好業績を挙げる企業もある。スーパーのメルカドナの昨年の売り上げは8%増の178億ユーロ。その独自の経営戦略は、アメリカの名門ビジネススクールで取り上げられているほどだ。

 もう1つの楽観要素は、スペインの経常赤字の対GDP比が、最悪だった07年の約10%から3%にまで大幅に縮小している点だ。この縮小幅はギリシャやポルトガルなどよりも大きい。

 とはいえ投資家が望むのは貿易不均衡の解消。輸入を減らすのも1つの手だが、もっと良い方法がある。メルカドナのファン・ロイグ会長が言うように、すべての国民が勤勉に働き生産性向上に努めることだ。

 労働市場の改革をはじめ、これまでにスペイン政府が断行した改革の効果が表れるまでには時間がかかるだろう。銀行の資本増強でいずれ信用収縮は解消されると思われるが、短期的には金利上昇が企業の資金調達を困難にするだろう。

 やはり当面は、前回のワールドカップの覇者であるサッカー代表チームの活躍だけが、スペイン人にとっての息抜きになるようだ。

[2012年6月27日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 6
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中