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過大評価されるフェイスブックIPO

SNS最大手のフェイスブックがIPOを申請。大きな注目を集めているが、疑問点もある

2012年3月8日(木)13時17分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

お化け企業 フェイスブックの創業者マーク・ザッカーバーグの思惑は Brian Snyder-Reuters

 SNS最大手の米フェイスブックが先週、IPO(新規株式公開)を申請。資金調達の目標額は50億ドルとされ、上場時の株式時価総額は1000億ドルに達するとの見方もある。史上最大規模のIPOになるはずだ。

 フェイスブックのIPOは熱狂的とも言える関心を集めているが、いくつか引っ掛かる点もある。例えば、同社の昨年の営業利益は約15億ドルとされる。これは立派な数字だが、決してずば抜けているとは言えない。

 それに、ニュースサイトのビジネスインサイダーが指摘したように、同社は創設8年目だが、同時期のグーグルと比べると売上高が見劣りする。しかも当時は今よりネット広告に投じられる金額が少なかったのに、グーグルは事業を拡大していた。

 最も気になるのは、フェイスブックが目指している1000億ドルという時価総額だ。

 これがいかに法外な数字かは、アップルの例を考えれば分かる。世界最大・最強のハイテク企業であるアップルの時価総額は、昨年の売上高のわずか約3倍だ。

 この比率をフェイスブックに当てはめれば、時価総額は125億ドル。1000億ドルというのは楽観的過ぎる見通しだ。

 昨年1月、ゴールドマン・サックスをはじめとする投資家がフェイスブックの未公開株を購入したときの評価額は、500億ドルだった。テクノロジー業界の動向を伝えるブログ「テッククランチ」によれば、最近の評価額は800億ドル前後だ。

 フェイスブックの評価額が、アップルの例をもとに算出した125億ドル程度で落ち着けば、未公開株を購入していた投資家たちは損失を被ることになる。彼らはそれでも構わないと思っているのかもしれない。何しろフェイスブックは偉大な実績と素晴らしいブランド力を兼ね備えた会社だ。

根拠なき熱狂が消えたら

 フェイスブックに対する評価を甘過ぎると考える私の見方に同意する人の数と、同社のIPOの見通しは「妥当だ」とみる人の比率は1対10程度かもしれない。

 楽観主義者は言うはずだ──グーグルやアマゾン・ドットコムの評価額だって、かつては法外に思えたが、そんなことはなかった。昨年の売上高なんて気にするな。フェイスブックは新興企業なのだから、グーグルと比べるほうがおかしいんだ、と。

 多くの投資家たちにとっては、フェイスブックのIPOは一生に一度あるかないかの大イベント。新製品発表会を「絶対に見逃してはならない」と思うアップルのファンと同様な心理だ。
今回提供される株式が、わずか50億ドル相当分であることも、株価をつり上げる要因になるだろう。驚異的な需要があれば、フェイスブックは提供する株式数を増やすことだってできる。

 実際に上場時の株式時価総額が1000億ドルに達する可能性はあるだろう。だが、この数字を上昇させ続けるのは難しいかもしれない。同社を取り巻く「根拠なき熱狂」が少しずつ消えていけば、なおさらだ。

 その責任は、未公開株の段階で同社の評価をここまで押し上げてしまった投資家たちにある。彼らは、一般投資家が同社の評価を高める余地を残したくないとでも思っているのだろうか。
 
 ソーシャルゲーム最大手ジンガのIPOでも同じようなことがあった。IPO前の資金調達の段階で付いた評価が高過ぎたため、IPO時の評価が予想を下回ったのだ。

 本来、そんなことは起きないはず。だがIT投資を取り巻く環境は以前とは違う。情報通の投資家たちは、IPOが行われるずっと前にお目当ての株の売買を終えているのだ。

[2012年2月15日号掲載]

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