最新記事

著作権

ネット業界は「第5の権力」

「言論の自由」と圧倒的な影響力を武器にSOPAを一夜で葬ったのはいいが

2012年2月22日(水)14時28分
千葉香代子(本誌記者)

ウィキペディアはサービス停止でアメリカ人に「危険」を知らせた Yves Herman-Reuters

 インターネット業界は先週、ハリウッドと米議会に対して歴史に残る劇的な勝利を収めた。アメリカ独立戦争でイギリスを破った勝利になぞらえる米メディアもあるほどだ。映画・音楽業界、米商務省など、資金力も政治力も最強の支持者をバックにした法案を、一夜にして骨抜きにしたのだから無理もない。

 海外でコピーされた娯楽作品や医薬品がネットを介して米国内で視聴・販売されるのを防ぐ目的で、下院と上院がそれぞれ審議してきたのが「オンライン海賊行為防止法(SOPA)」と「IP保護法(PIPA)」。現行法では海外サイトのコンテンツを取り締まれないため、それを表示する米国内のサイトを規制する法案だ。「言論の自由が制限される」として昨秋からネット業界が反対していた。

 18日にウィキペディアが英語版サービスの24時間停止に踏み切り、グーグルやフェースブックなどの大手も反対を呼び掛けるに至って、ネット上は前日まで一般人は誰も知らなかった「SOPA & PIPA」のキーワードであふれ返った。

 その結果、18日時点では両法案に賛成の議員が80人、反対が31人だったのに対し、20日には賛成63人、反対122人に逆転したと、IT専門ブログのテッククランチは伝えている。

 ネット業界が強く反対した理由は取り締まり対象が広範で、知らずに海賊版コンテンツを表示したりリンクを張っただけでサイト全体が閉鎖されかねないため。フェースブックやYouTubeなどユーザー作成のコンテンツが主体のサイトですべてをチェックするのは不可能で、存続も危うくなる。これに対して現行法では、映画会社などから著作権侵害の指摘を受けたときにだけ削除すれば済む。

 同様に問題視されたのは、SOPAに盛り込まれた「DNS(ドメイン名システム)遮断」という手法。DNSは「www.xyz.com」などのドメイン名を「111.21.111.21」のようなIPアドレスに変換してウェブページを表示させるために必要な電話帳のようなシステムだ。

 SOPAは、一般ユーザーが違法サイトのドメイン名を入力したとき、ネット企業がDNSを変更して警告ページなどに振り向けさせる方法を提案していた。だが、ドメイン名ではなくIPアドレスを直接入力すれば違法コンテンツへのアクセスは可能な半面、DNSを恣意的に変更することを許せば、政府や犯罪者が勝手に表示内容を操作するセキュリティー上の危険も招く。DNS遮断は結局、SOPAから削除された。

 だが、著作権を保護する何らかの方法が必要であることに変わりはない。法案を支持する米国商工会議所によると、海外のサイトを介した著作権侵害による米企業の被害額は年間1350億ドルに上る。

 ネット業界が「第5の権力」であることが明らかになった今、「言論の自由」を盾にあらゆる規制に反対するだけ、という姿勢は許されないだろう。

[2012年2月 1日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、代替関税率を10%から15%に引

ビジネス

エヌビディアやソフト大手の決算、AI相場の次の試金

ワールド

焦点:「氷雪経済」の成功例追え、中国がサービス投資

ワールド

焦点:米中間選挙へ、民主党がキリスト教保守層にもア
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 2
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官が掲げる「新しいスパイの戦い方」
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 5
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 6
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 7
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 8
    「窓の外を見てください」パイロットも思わず呼びか…
  • 9
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 10
    揺れるシベリア...戦費の穴埋めは国民に? ロシア中…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 3
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワートレーニング」が失速する理由
  • 4
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 5
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 6
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 7
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 8
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 9
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 10
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中