最新記事

競争力

「日韓逆転」の勘違いから抜け出せ

長年培った技術力はどの国にも負けていない。発想と戦略を変えれば底力で再起できる

2011年6月9日(木)14時19分
知久敏之(本誌記者)

日本の底力 世界市場ではトップを奪われたが(ラスベガス見本市で) Justin Sullivan/Getty Images

 東日本大震災は日本経済、特にその基盤を支える製造業に深刻なダメージを与えた。全国のサプライチェーンが寸断され、電力不足も続いている。問題が解決するまでには、まだ数カ月はかかるとみられている。

 しかし、日本の製造業の課題は震災前から明らかだった。韓国をはじめとする新興の工業経済地域の猛追によって、世界のトップを走ってきた日本は製造業における国際競争力を失ったのではないかと危惧されていた。
 
 昨年、日本の音楽チャートを韓国のポップスグループが席巻した。音楽業界に限らず、最近の韓国は元気が良い。昨年のG20首脳会議(金融サミット)では議長国を務め、韓国メーカーの存在感は世界で高まっている。日本の新聞には、対抗心をあおるかのように「日韓逆転」の見出しが躍る。

 それが数字にはっきりと表れているのは製造業だ。かつて日本のメーカーが独占した薄型テレビの世界市場は、06年に韓国のサムスン電子がシェアトップを奪い、以来韓国勢が上位を占めている。

 だが韓国の人々が勝ち誇っているかというと、そうではない。朝鮮日報は昨年3月、「日本の『韓国に学ぼう』に浮かれてはいけない」という社説を掲載。この中で「日本と韓国の間には簡単には超えられない格差が今も相変わらず存在する」と、冷静な見方を促している。

 その格差とは何か。例えば製造業における技術の先進性を示す特許収入で比較してみると、08年の日本の収入は257億ドルで、24億ドルの韓国の10倍以上に達する。また日本では自然科学部門のノーベル賞を14人が受賞しているが、韓国では1人も受賞していない。

 さらに今回の震災で、日本の製造業の競争力の高さが図らずも明らかになった。日本から輸出される製造部品の供給が滞ったことで、世界中のメーカーが操業を停止する事態に陥ったからだ。

 日本が抱える問題は技術力の低下ではない。底力が失われたわけでもない。その実力をどう生かすかという、戦略や発想に問題があったのだ。「長い伝統に培われた日本の技術はどこにも負けていない。環境の変化に対応できなかったことが日本企業の敗因だ」と、東京大学大学院ものづくり経営研究センターの吉川良三は言う。

 吉川は、この10年で製造業をめぐる世界の環境が激変したと指摘する。まずグローバル化によって主要な市場は先進国から新興国に移り、顧客のニーズが変わった。新興国の消費者は高機能より低価格の商品を欲しがる。「いい物を作れば売れる」という日本企業の思い込みは通用しなくなった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン大統領、米国との対話に前向きな姿勢表明 信頼

ワールド

フーシ派、紅海船舶攻撃に犯行声明 ホデイダ沖でも2

ビジネス

再送-米、日韓など12カ国に関税巡る書簡送付=ホワ

ビジネス

日本と韓国に25%の関税、トランプ氏表明 8月1日
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 2
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 5
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 6
    米テキサス州洪水「大規模災害宣言」...被害の陰に「…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 9
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 10
    新党「アメリカ党」結成を発表したマスクは、トラン…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中