最新記事

競争力

「日韓逆転」の勘違いから抜け出せ

2011年6月9日(木)14時19分
知久敏之(本誌記者)

■高い技術力を生かす道

 さらに製造工程のデジタル化で、新商品の開発にかかる時間とコストが大幅に削減され、顧客の細かいニーズに対応する豊富な種類の商品展開が可能になった。グローバル化とデジタル化というこの2つの変化に、日本企業はうまく対応できなかった。

 吉川の元には今、日本中の経営者から講演依頼が殺到している。それは吉川が、94年にサムスン電子の常務に就任して業務改革の指揮を執り、その後の躍進をつぶさに目撃してきたからだ。

 サムスン電子は97年のアジア通貨危機をきっかけに、徹底的な業務改革を行った。新興国のニーズに応える商品展開を進め、例えば使用人に食料品を盗まれる恐れがあるインドで鍵付きの冷蔵庫を大ヒットさせるなど、世界市場でシェアを確実に伸ばしていった。

 日本に欠けていたのは、変化する世界の現状と真摯に向き合う姿勢だった。携帯端末の例に見られるように、日本のものづくりは国内と先進国のニーズばかりを先取りしようと「ガラパゴス化」し、低価格で必要最低限の機能を求める新興国のニーズを顧みなかった。

 しかし、ガラパゴスと揶揄された日本のやり方は、韓国だけでなく各国をしのぐ高い技術力の裏返しでもある。いま求められているのは世界の現実を知り、新たな発想で底力を生かすことだ。吉川は、「日本企業は必ず再生する」と確信している。日本の経営者の多くが「このままでは生き残れない」という強い危機意識を持ち始めているからだ。

 震災後の日本が、変化する世界の現実と真摯に向き合い、底力を発揮できるか。新たな発想で自らの殻を破るという強い覚悟さえあれば、できるはずだ。

[2011年5月18日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中