最新記事

東南アジア

インドネシアは第2のシリコンバレー

スマートフォンやタブレットPC市場が急成長。世界から投資が流れ込むインドネシアの強みとは

2011年6月1日(水)17時37分
アンジェラ・デワン

巨大市場 インドネシアでは1億人以上が携帯電話を所有 Supri-Reuters

 ヤフーが、SNSと位置情報を組み合わせたネットサービス企業「フォースクエア」を1億ドルで買収しようとしていると報じられたのは、昨年4月。買収には失敗したが、ヤフーはこの直後にフォースクエアそっくりの企業をかなりの低価格で買っていた。インドネシアのネットベンチャー企業「コプロル」だ。

 ヤフーのようにインドネシアのIT関連ベンチャーに投資している外国企業は多い。インドネシアでは、スマートフォンやタブレット型パソコンの市場が急速に拡大。生産面では、デジタル製品のデザインや製造が、最近コストが上がり始めている中国やインドより安く抑えられるという利点もある。

 コプロルは、フォースクエアと同じようにスマートフォンのGPS機能でユーザーの居場所を認識し、周辺のスポットを画面にリストアップするサービスだ。「チェックイン」すると、SNSを使ってユーザーが撮った写真や、そのスポット(レストランやモールなど)の情報や感想を共有できる。

 ヤフーはコプロルの買収額を公表していないが、250万ドル程度と推定される。買収後、コプロルのユーザーは7万5000人から150万人と20倍になった。コプロル・ユーザーの個人情報や位置情報へのアクセス権を得たヤフーが、大金を稼ぎ出すことは間違いないだろう。

 インドネシアのIT産業の最新動向を伝えるブログ「デーリー・ソーシャル・コム」のラマ・マムアヤによれば、同国のテクノロジー市場の潜在力に目をつけ、ITベンチャーに多額の資金をつぎ込む投資家が増えている。

 インドネシアでは08年以来、コプロルのようなベンチャー企業が500〜600社も生まれたと、マムアヤは言う。「香港や中国、シンガポール、アメリカ、日本の投資家たちが1つの事業につき20万〜100万ドルを投資している」

スマホ利用者は3年後に1630万人

 ヤフーのように、ベンチャー企業を丸ごと買収する企業も多い。シカゴを拠点とする共同購入サイトのグルーポンは、インドネシアのeコマース企業「ディスダス」を買収した。

 シンガポールに拠点を置くベンチャーキャピタル「イーストベンチャーズ」の共同創始者、衛藤バタラはインドネシア市場に大きな可能性を見ている。インドネシアでは中間層の増加により、国民1人当たりの所得が3000ドルにまで成長した。

「フェースブックのユーザー数で言えば、インドネシアはアメリカに次いで2番目。ツイッターのユーザー数は世界4位だ。それでも、まだウェブや携帯サービス企業でIPO(新規株式公開)をしている企業がない。市場はすぐそこにあり、既に動き始めたプレーヤーもいる。われわれも遅れをとりたくない」と衛藤は言う。

 衛藤の言うように、市場は確かに存在している。2億4000万人の人口を抱えて急成長を遂げるインドネシアの携帯保有者数は1億人以上。調査会社IDCによれば、スマートフォンの利用者は2014年までに1630万人に達するという。

 スマートフォンやそれを活用したサービスがブームになっている背景には、インドネシアでは固定電話とブロードバンドインターネットのインフラ整備が極端に遅れている状況がある。消費者にとってはスマートフォンを購入するほうが早い。スマートフォンのほうが安価で、通話だけでなくネットやメールなど多様なサービスも利用できる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、テスラへの補助金削減を示唆 マスク氏と

ビジネス

米建設支出、5月は‐0.3% 一戸建て住宅低調で減

ビジネス

ECB追加利下げに時間的猶予、7月据え置き「妥当」

ワールド

米上院、トランプ減税・歳出法案を可決 下院で再採決
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    未来の戦争に「アイアンマン」が参戦?両手から気流…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中