最新記事

米経済

観光大国を悩ますビザ地獄

PR下手と煩雑なビザ取得手続きがアメリカの「巨大輸出産業」の足かせに

2011年2月10日(木)13時43分
マーサ・ホワイト

アメリカ離れ? アメリカを訪れる外国人観光客は2000年に比べて240万人減った Brendan McDermid-Reuters

 歩道にたむろして通行の邪魔! くだらない写真を撮って喜んで、ばかみたい! けちけちしていて、チップもろくに払わない!

 観光客の悪口を言うのは自由だが、アメリカにとって外国からの観光客は欠かせない存在だ。外国人観光客相手の旅行産業は、単に大きなビジネスというだけでなく、巨大な「輸出産業」でもある。国際観光による収入は、旅行先の国にとって観光サービスの「輸出」と見なせる。

 09年、外国人観光客がアメリカに落とした金は1200億ドル。観光業が総輸出高に占める割合は8%で、サービス部門の総輸出高に占める割合は24%に達している。観光業はアメリカが貿易黒字を計上している産業の1つで、09年は210億ドルの輸出超過だった。

 しかし、いまアメリカの観光産業は危機の瀬戸際に立たされている。世界の観光客が訪れる旅行先のうち、アメリカが占める割合が下落傾向にあるのだ。全米旅行協会によると、09年のシェアは00年の7割足らずの水準に落ち込んだ。この9年間で、アメリカを訪れる外国人観光客の数が240万人減った計算になる。

 アメリカの観光産業が抱える問題の1つは、マーケティングだ。州や都市レベルはともかくとして、外国人観光客の呼び込みに努める全国レベルのPR機関がこれまでなかった。

 それでも、10年3月に新しい法律が成立し、ようやく観光振興公社という半官半民の組織が設立されることになった。

「世界の人々はアメリカに対して、保護主義的で、傲慢で、もてなしが悪いという印象を持っている。そのイメージを変えなくてはならない」と、同公社の理事長を務めるダイヤモンド・リゾーツ・インターナショナルのスティーブン・クルーベック会長兼CEOは言う。「アメリカを売り込むためのマーケティングを活性化する必要がある」

ビザ面談まで3カ月待ち

 旅行で訪れる土地に何を求めるかは、国民性によってまちまちだ。観光振興公社は、売り込み先に合わせたマーケティングを行わなければならない。例えば中国市場に対してはアメリカの文化をアピールし、ブラジル市場に対してはエンターテインメントとナイトライフを強調する必要があるかもしれない。

 マーケティングは確かに骨の折れる仕事だが、観光振興公社にとって最大の課題はほかにある。せっかく外国人観光客がアメリカを訪れる気になっても、あまりに不便なビザ発給システムが大きな障害になるのだ。

 現在、アメリカがビザを免除している国は36カ国。それ以外の国の国民は、アメリカに入国するためにビザの取得が義務付けられている。しかも9.11テロ以降、ビザ取得には多大な時間と労力とコストが掛かるようになった。観光旅行をしたいだけなのに、個人面談まで受けなくてはならない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

冷戦時代の余剰プルトニウムを原発燃料に、トランプ米

ワールド

再送-北朝鮮、韓国が軍事境界線付近で警告射撃を行っ

ビジネス

ヤゲオ、芝浦電子へのTOB価格を7130円に再引き

ワールド

インテル、米政府による10%株式取得に合意=トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋肉は「神経の従者」だった
  • 3
    一体なぜ? 66年前に死んだ「兄の遺体」が南極大陸で見つかった...あるイギリス人がたどった「数奇な運命」
  • 4
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 5
    『ジョン・ウィック』はただのアクション映画ではな…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 9
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 10
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 7
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 8
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 9
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 10
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中